音楽の普遍性が感じられる3枚組ベスト。竹内まりや『Turntable』
文・神舘和典
時間が経過しても懐メロにならない、普遍性をまとったポップミュージックは、何が特別なのか――。
そのヒントを竹内まりやさんの作品に見つけられる。失った恋を描いても、許されざる愛を描いても、どこかに希望が感じられるのだ。希望は色褪せない。だから、1970年代、’80年代の曲も今が感じられる。かつてそんな感想を伝えたら、本人にはとくに意識はなく、気づくと歌に希望が盛り込まれているそうだ。
「でき上がった曲を並べて、結果としてどの作品にも希望が見えるとしたら、それは私の性分というか、人生観のせいかもしれません」
音楽は生き物。作り手や歌い手の生き方がどうしても音に表れる。
9月4日にリリースされる、竹内さんのデビュー40周年記念アルバム『Turntable』は3枚組。
1枚目は、過去のベスト盤に収められていないモア・ベスト集。2枚目は、ほかのアーティストに書いた曲のセルフカバーや自身の曲の別テイク。3枚目は、洋楽のカバー集。シンガーとして、ソングライターとして、さらにリスナーとしての竹内さんの歩みも聴くことができる。
女性シンガーの多くは、年齢を重ねるとともに声が低い音域に移行していく。ところが、竹内さんの声は20代のころからほとんど変わっていない。アルトあたりの音域でずっと音の物語を歌っている。
そして、一緒に歌い演奏するメンバーが変わると、竹内さんはまるで別のシンガーであるかのように、違う風景やシーンを見せてくれる。
3枚目の洋楽のカバー集では、杉真理さんらのバンド、BOXとビートルズナンバーを歌うと、港町リバプールの匂いを感じる。センチメンタル・シティ・ロマンスと共にイーグルスの「Tequila Sunrise」を歌うと、アメリカ西海岸のさわやかな風が吹く。2年前にこの世を去ったギタリスト、松木恒秀さんが率いたWhat is HIP?と一緒にザ・バンドの「Out Of The Blue」を歌うと、土の香りがしてくる。
まぶたを閉じて聴くと、鮮やかに景色が見え、風の匂いがする。
デビューアルバムから40年間の音の歩み
モア・ベスト集は、結婚前、結婚後、両方のレーベルのCDから選曲。
『クロワッサン』1004号より
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