二泊三日の旅でも持参!
山本一力さんの、美味しい自炊の七つ道具。
直木賞作家・山本一力さんは一年のうち3分の1は取材旅行へ出かけます。「旅先でも、うまいものが食べたいからね」という一力さんは、旅先のホテルでも自炊をするというほど食への思いも人一倍。そんな豊かな食生活を支えるのは取材旅行に同伴する妻・英利子さんです。食にまつわる旅のおもしろエピソードや、こだわりの取材旅行に欠かせない自炊の七つ道具を見せてもらいました。
英利子 だから調理道具持参です。すっごく重いんですよ、自炊セット。
一力 旅先でも、うまいものを食べたいからな。
英利子 大治郎と動力と一緒に家族4人でアメリカへ行ったときよ。お父さんのわがまま三昧で、いきなり砂漠の真ん中で「カレーライスが食べたい、福神漬けも」って言いだして……。
一力 ニューメキシコのアルバカーキだったよな。俺が冗談交じりに、「カレー食うなら福神漬けがいるぞ、探してこい」って言ったら、大治郎と母さんが車で出かけていって本当に買ってきちゃったんだ。あれには驚いた。
一力 翌日、動力が帰国することになっていたから、その送り出しも含めての「砂漠でカレー」だったんだ。あれはうまかったよ。
英利子 私たち、旅先での自炊生活はかなり年季入ってるよね。出張用の調理道具は、2泊3日以上なら国内でも持って出かけるし。
一力 おかげで相当狭いホテルの部屋でも自炊できるようになった。
英利子 自炊道具の中でもアメリカで買った電気ケトルは鍋代わりに使えて、お父さんが好きなそうめんを茹でるにはもってこいだし、極めつきはコロンとした卓上電気鍋ね。ステンレスボウルとグリルプレートを付け替えられるようになっていて、ステンレスボウルだとごはんが2合炊けるし、グリルプレートならお父さんがとびっきりの目玉焼きを作ってくれる。
英利子 だからグリルプレートを何回も買い替えてずっと使い続けてる。
一力 この鍋で炊いためしが、またうまいんだ。アメリカ滞在中は母さんが合わせ酢を作って手巻き寿司をやるけど、向こうの日本人が喜ぶよね。
英利子 もう大喜び! 銀シャリだけでなく、玄米も炊いてアボカドと玉ねぎをのせたりして、すごくおいしい。
一力 そのコツは一つだけ。海苔を売るほどたくさん持っていくこと。ごはんに海苔をぐるぐる巻いて食べるから、手巻き寿司はおいしいんだよな。でも海苔が少なくなると……。
一力 向こうでも海苔は売ってるんだけど、うまくないんだ。
英利子 旅先での食べ物話はつきないよね。この7年ぐらい、お父さんがジョン万次郎の小説を書き続けているので毎年アメリカに取材に行って、モーテルを転々としているから。
一力 ルート66を母さんが運転して端から端まで走ったこともあったよな。本当に助かってるよ。俺は母さんが作るものをなんだかんだ言いながら食うだけだから。
英利子 そうよね。お父さんは横から「何々作って」って言ってるだけだもの(笑)。買い物についてくるときも、小さい子みたいにうるさくて。
英利子 たしかにそうかも。最近、私たちがハマってもっぱらの話題になったのは低速ジューサーかな。ちょっと重いけど、海外にも持っていくし、うちの朝食にこれで作る人参とレモンのジュースは欠かせないもの。
英利子 お父さんは、私がこれで変なジュースを作っても飲んでくれるでしょ。ハワイでタロイモの葉っぱでジュース作って2人で3日間お腹下して寝込んだり、ニラのジュースを作ったときも凄まじい味だったけど、「何だ、こりゃ」って言いながら飲んでくれたし。すごいチャレンジングなことをやっても、とりあえずつきあってくれるもの。お父さんって時に驚くべきわがままだけど、そこは感謝してるのよ。
一力 お互いさまよ。いや、やっぱり母さんがえらい!
◎山本一力 作家/1948年、高知市生まれ。『蒼龍』でオール讀物新人賞、『あかね空』で直木賞を受賞。「ジョン・マン」シリーズが人気。
『クロワッサン』915号(2015年12月25日号)より