思春期の悩みや焦りは 大人にも重なる。映画『まく子』
(文・秀島史香)
自分の体と心だけど、突然その扱い方が分からなくなりオロオロしてしまう。長いような短いようなトンネルの中、どんな道筋を通ったか分からないまま、ポッと出たら大人と呼ばれる年齢になっていた。これがおぼろげな私の思春期の記憶。さて、あなたは?
主人公のサトシはひなびた温泉旅館のひとり息子。同級生がやけに子供っぽく見え、家族との会話も一言で終了と、思春期の入り口に立つ11歳。そのモヤモヤをさらに増幅させているのは父親。浮気現場を見てしまい、「大人は不潔だ」と反発しながら、成長する自身の体に戸惑う日々。
そこに自分よりずっと大人びた、謎の美少女コズエが転入してくる。奇想天外な秘密を打ち明けられドギマギしながらも心惹かれるサトシ。劇中に挟み込まれるおとぎ話のような映像も相まって、見ているこちらも翻弄されっぱなしなのだが、それこそが思春期というもの。学校と家で完結してしまう世界から、まったく別の場所へ行きたいと願ったり。苛立ったり、見ないフリをしたり。
決して、過ぎ去った年頃を描いた「あったねえ、懐かしいねえ」だけの物語ではない。大人たちも不器用で、「もしかして思春期まだ続いています?」と同じように悩む姿に、自分が重なりドキリとしてしまうのだ。
今の時代、子供と大人の境界線がボンヤリしてきたという。以前番組にお迎えした思春期専門の心理学者、岩宮恵子さんの言葉を思い出した。
「今は全年齢思春期。世の中の変化があまりにも激しいので、これができたら大人です、という基準がなくなってきている。これから自分はどうなっていくんだろうという不安と焦りがどの年齢の人にもあると思う」
風が吹き、季節はめぐり、人は年齢を重ねる。あらゆる事は変わり続ける。だとしたら、過去を悔やんだり、未来を恐れたりするよりも、「今」をしっかり味わうしかない。サトシとコズエ、そしてそれぞれに悩む大人たちの姿は、ネガもポジもあらゆる変化を受け止め、肯定する。観終わった後、「そうか、ムリにもがく必要はなかったんだ」と、あたたかい手をそっと当ててもらった気分。さて、あなたは何を感じるだろう?
『まく子』
監督:鶴岡慧子 原作:『まく子』西加奈子 出演:山﨑 光、新音、須藤理彩/草彅 剛
3月15日より東京・テアトル新宿ほかにて全国公開。
http://makuko-movie.jp/
秀島史香(ひでしま・ふみか)●ラジオDJ、ナレーター。FMヨコハマ『SHONAN by the Sea』(日曜朝6時~)ほか、TV、映画、CM、機内放送でも活躍。
『クロワッサン』993号より
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