高校生のとき、母に伝えた言葉を振り返れば。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」
大学進学を考えていたときに、「ずっと尊敬していたいから、私は陶芸の道は目指さない」と、母に言った。そのときの正直な気持ちだったのか、母の思いを断ち切るための言葉だったのか、母には今もそのときの言葉が刺さっているという。
私があの言葉を放った頃、母は駆け出しの陶芸家だった。独学で作陶をしていた母は、私にその道を継いで欲しいと思っていたのではなく、大学で陶芸を学ぶことで、少しでも有益な情報を持って帰ってきて欲しいと願っていた。
何の技術も身につけていない高校生の私は、何にもないからこそ、自分にどんな可能性も感じられていたのだろう。やるのなら、徹底的にやって、母をも追い抜く存在になりたい。けれど、そうなったときに、母を尊敬し続けられるか、ということを考えたのは、本心からだったと思う。
娘に陶芸科進学を断られ、それでも独学でパワフルに進んでいく母を見てきた。母の思いを絶ってまで行きたかった大学に進学し、そこで自分のためだけに多くを学び、卒業後、幸運にも、すぐに美術家としての活動がスタートした。40歳を超えてからキャリアをスタートさせた母は、私にとって少し先を行く先輩のような存在で、私は今やっと、母が陶芸を志した年齢になった。
道は違えど、母は私を同じ作り手として尊敬してくれている。私はあの頃、「母を超える」というようなことを想像したのだけれど、母は当時から「娘から学ぶ」ことを期待していたのだ。
ずっと年下の自分よりもはるかに経験の浅い人間からも学びがあることを知っている母は、どんな仕事をしていても、たとえ何の仕事もしていなかったとしても、私にとってはずっと尊敬できる存在であり続ける。
束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は https://www.facebook.com/imost
『クロワッサン』976号より
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