【渡辺 眸さんインタビュー】50年の時を経てまとめられた写真集『TEKIYA 香具師』
撮っているあいだは、怖いと思わないのね。
撮影・尾嶝 太
東大安田講堂事件の際、バリケードの内側でただ一人写真を撮り続けた渡辺眸さん。’60年代の若者パワーがみなぎる新宿の街や、アジア各地で思索するかのような猿たちを撮った写真も有名だ。そんな渡辺さんが写真学校の学生だったころに撮った作品が、50年の時を経て一冊の写真集にまとめられた。
「たまたま家の近くを散歩していて、男たちが地面に白線を引いている光景に出合ったのね。屋台のショバ割り、場所取りなんだけど。すぐ家に戻って、たった一台持っていたカメラで撮り始めたの」
と写真集の表紙を指差す。東京都北区の冨士神社で、年に1回行われる縁日でのこと。夢中でシャッターを押しているとなにやら雰囲気がおかしい。男たちに取り囲まれ、女性が「あんた、半殺しにされるよ!」と叫ぶ。殴られるか! そう思った瞬間だった。
「俺を撮ってくれよ」
ずいと出てきた親方らしき男。これで形成逆転。お墨付きをもらったかっこうで、それからは都内だけでも月に20日ほど開催される縁日を追い、屋台で働く人たちを写真に収める日々が始まった。
「みんな何度も顔を合わせるから仲良くなって、キャビネに焼いた写真をあげたり。そのうち、私を店に立たせて何時間も帰ってこないオネエさんもいたっけ(笑)」
親方の家に呼ばれて、刺青を撮らせてもらったり、「2号はいるから、3号にならないか」と言われたこともある。ついには、ある組の襲名披露式を撮影することに。
「撮っているあいだは私、怖いとは思わないのね。構図とかもあんまり考えない。ただ夢中で、体が先に動くという感じかな」
そんな渡辺さんのキャラクターゆえだろうか、被写体は誰も無防備だ。モノクロームの、昭和の懐かしい風景のなかにたたずむ男女は一見強面だが、その表情は飾るところがなく、まるで内面がそのまま写されているようにさえ見える。
「この人たちにはほんとうにいろいろ教えてもらったなあ。ミイラ取りがミイラになるなよ、なんて心配してくれる人もいましたね」
今年は東大紛争から50年。『東大全共闘1968-1969』も文庫化される予定だ。それとは別に、渡辺さんがここ数年、あたためている企画が「ロータス」。日本各地の群生地や海外まで出かけて、蓮の花の表情を写真に収めている。
「出版社はまだ決めていないけど、できれば担当者は女性がいいなって思っています。だって蓮の写真を見せると、女の人は決まってテンション上がるんです」
地湧社 2,900円
『クロワッサン』966号より
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