口のなかで完成する味の芸術、人気パティシエの創作の源とは?
撮影・清水朝子
店の始まりは、ロールケーキやバウムクーヘンなどのお菓子。
「9年前に日本の『サロン・デュ・ショコラ』に初出展した時、僕のことを知っている人からは『なんでロールケーキの人がショコラを作るの?』ってよく言われました」
今でこそ日本を代表するショコラティエでもある小山さんだが、店の始まりはロールケーキやバウムクーヘンなど、パティシエとして手がけていたお菓子だった。2003年に小さな一軒のパティスリーとしてオープンした『パティシエ エス コヤマ』は、現在、敷地面積約1500坪。本店のパティスリーのほか、ショコラ専門店『ロジラ』やパン専門店『エス ブーランジュリー』など、6軒の専門店を構えている。
「僕は本来、こんなふうに店を大きくしたい人じゃないんですよ(笑)。店を始めた当初、予想外に多くのお客さんが来てくれたことで、ロールケーキを中心に人気商品が2、3時間で売り切れるようになって。せっかく遠くから来たのに目当ての商品を買えない、仕込み中で店が閉まっている、とお客さんをがっかりさせてしまうのが不本意で、いつ来ても商品が買いやすいショコラの店や、もともと本店で売っていたパンやマカロンを独立させた専門店を作った結果、今に至ります。本店をしっかり機能させたいというのが根底にありました。それに、郊外の三田にわざわざ来てもらうなら、何時間でも楽しんで帰ってほしいですから」
そもそも、都会でもない、縁もゆかりもない三田で店を始めたのは、“商売”よりも“ものづくり”がしたい、そんな思いからだった。
「神戸に住んでいた時にたまたま通りかかって、ここだ、とピンときました。自然があってゆったりと時間が流れるこの場所なら、子どもの頃と同じ感覚でものづくりができると思った。母の田舎で虫や魚を捕ったり、四季の香りを嗅いでたくさんのことを“吸収”し、京都の路地裏で新しい遊びを考えたり、近所のおじちゃんたちに話を聞いてもらって“表現”していたように、ここなら、のびのびとインプットをアウトプットに変えられると直感したんです」
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