わずか80万円の貯金でマンションを買う方法。
撮影・松尾成美 文・神舘和典
“今のお家賃と比べてみませんか?” 不動産のチラシに書かれていた定番のキャッチコピーに、若き風呂内亜矢さんはまんまとその気になった。
「私、このマンション欲しい!」
ひとたび購入する気になったら、欲求を抑えることはできない。
「岡山でシステムエンジニアの仕事に就いていた26歳の時です。一度契約した新築の賃貸アパートがトラブルで建たなくなり、がっかりしたタイミングでチラシを見てしまって」
さっそくモデルルームを見学した。
「JR岡山駅から徒歩10分。55㎡の1LDKで1740万円。広々と見える内観が気に入りました。今思うと、家具はすべてモデルルーム用の小さなサイズだったのですが……」
周囲にはたしなめられたが、一度ONになった“欲しいスイッチ”は、誰にも止められず、風呂内さんは契約。
「契約の時、諸費用に70万円かかると知ってびっくり。私の貯金通帳には80万円しかなくて、残高がわずか10万円になりました」
マンションが建つのはその1年後。
「それまでに頭金をつくる!」
自分に強く言い聞かせた。
貯蓄口座開設、保険見直し……。 年間160万円の貯蓄に成功。
マンション購入以前の風呂内さんにはお金を貯めるという発想はなかった。
「入社4年目当時の年収は450万円。親しかった同期の女性が400万円貯金していると知って猛反省しました」
この時に勝間和代さんの著書『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践』と出合う。そこには具体的なお金の貯め方や使い方がわかりやすく書かれていた。風呂内さんは親元生活で学生時代から厚遇のアルバイトにも恵まれ、洋服にも化粧品にもエステにも飲み会にも、躊躇なくお金を使っていた。その出費を見直すきっかけになる。
「まず貯蓄用の口座を作りました。近所に給与が振り込まれる銀行と当時の郵便貯金のATMが並んでいたので、毎月、給料日に郵貯の口座に数万を入金。ボーナスは全額貯金。手数料のかかるATMは絶対に使わない。服はお店に3回見に行き、気持ちが変わらなかったら買う。被服費は年間で5分の1まで削りました。生命保険も見直しです。定期付終身を解約して団体割引が付く商品に入り直しました。出張手当を浮かせるために新幹線の回数券や5回宿泊すると1泊無料になるビジネスホテルチェーンを利用。会社から奨励金が出る資格も取得しました」
飲み会の回数も大幅に減らした。
「高校、大学、会社とばらばらだった飲み会をまとめるようにして」
“友だちの友だちは友だち”の理論で異業種交流会状態になり、人間関係の輪が思いのほか広がっていった。
「1年間の徹底した節約生活で160万円貯めました」
マンションが建った後も、しばらくは節約生活が続いた。
「飲み会は自宅での“家飲み”に。毎日買っていたコーヒーは1杯あたり円のドリップタイプに。“ラテマネー”といって、カフェスタンドで1杯400円のカフェラテを毎日飲むと、年間10万円近い出費になります。切り詰めているはずなのにお金がない、という人の中にはラテマネーがかさんでいるケースが少なくありません」
すべての節約術を試して、 得意な方法だけを続ける。
その後、29歳で再び風呂内さんは浪費生活に戻ることに。
「東京の不動産会社に転職して生活が一変しました。年収が倍になった代わりに激務になり、節約よりも稼ぐ意識が強くなってしまいました」
自分のチームの成績アップのために若手を叱咤激励する毎日。部下や後輩たちに食事をおごり、誕生日にはプレゼントも用意した。
「それでも一度節約体質をつくったので、会社を辞めてファイナンシャルプランナーの資格取得の勉強を始めてからは、無理なく家計は切り詰められました。毎日、納豆、めかぶ、キムチ、豆腐の食生活でもへっちゃらでした」
そんな風呂内さんに年間100万円を貯めるコツを訊ねるとーー。
「自分の性格に合う方法で貯金することではないでしょうか。私の場合、粗食にしたり買い物を控えることはできますが、毎日お弁当をつくるとか500円玉貯金はダメでした。思いつく節約を片っ端から試し、苦しくない方法で貯めることが長続きの秘訣です」
『クロワッサン』942号より
●風呂内亜矢さん ファイナンシャルプランナー/SE、不動産会社勤務を経て現職。最新刊は『できる女は「抜け目」ない』(あさ出版)。
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