ラテン音楽の響きが映す移民国家アメリカの現在──「NUEVAYoL」(バッド・バニー)
高橋芳朗の暮らしのプレイリスト。グラミー賞でプエルトリコ出身のシンガー、バッド・バニーの『DeBÍ TiRAR MáS FOToS』がスペイン語アルバムとして史上初めて最優秀アルバム賞を受賞しました。NFLスーパーボウルのハーフタイムショーにも出演して歴史的なパフォーマンスを披露。最後に掲げた「憎しみよりも強いものは愛だけ」という言葉は、分断が深まる社会への強いメッセージになりました。
文・高橋芳朗
2月1日に開催された第68回グラミー賞授賞式でプエルトリコ出身のシンガー、バッド・バニーの『DeBÍ TiRAR MáS FOToS』がスペイン語アルバムとして史上初めて最優秀アルバム賞を受賞しました。英語中心だった同賞の前提を揺さぶり、ラテン音楽と移民文化がアメリカ社会を形づくる重要な要素であることを示す出来事です。
彼は受賞スピーチで強硬な捜査が問題視されている移民税関捜査局(ICE)に言及し、「ICEよ、出ていけ。私たちは動物ではない。私たちは人間であり、アメリカ人だ」と発言しました。これは移民を排除の対象として語る言説への明確な異議であり、自身の成功を共同体の尊厳へ結びつける宣言でした。
この姿勢は、受賞アルバムの冒頭を飾る「NUEVAYoL」のミュージックビデオにも表れています。ニューヨークのプエルトリコ系コミュニティの行事や日常、自由の女神像にプエルトリコ旗が重なる映像を通じて、移民の存在がアメリカの理念と不可分であることが示されます。
そしてバッド・バニーは2月8日、NFLスーパーボウルのハーフタイムショーにも出演して歴史的なパフォーマンスを披露。最後に掲げた「憎しみよりも強いものは愛だけ」という言葉は、分断が深まる社会への強いメッセージになりました。彼は今後、文化と祝祭の中心からアメリカの価値観を問い直す存在になっていくでしょう。
『クロワッサン』1162号より
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