映画ジャーナリスト・金原由佳さんの、2025年ベスト映画・ドラマ──若い世代の映画監督の力作からエネルギー補給
優れた物語に触れる時間は、せわしない日常を忘れさせてくれるもの。映画ジャーナリストの金原由佳さんに、今年を彩った名作を紹介していただきました。
イラストレーション・村上テツヤ 文・小沢緑子
「ここ数年、若い世代の映画監督たちの選ぶ題材で目立つ“ヤングケアラー”。日本映画だけじゃないかと思うほど多く、このジャンルから続々力作が生み出されています」と、金原由佳さん。『愛されなくても別に』は、「宮田陽彩を演じる主演の南沙良さんは大学の授業以外はコンビニで働き、バイト代8万円をシングルマザーの母親に毎月とられている設定。その8万円を稼ぐにはどれだけの作業が必要なのか知る必要があると思って、自分も思い立ってコンビニでバイトしてみましたが、その激務ぶりに驚きました。ヒロインの強さにしみじみ感じ入った次第。シスターフッドの名作としておすすめします」。渋谷を舞台にした『見はらし世代』は、「ランドスケープデザイナーの父親と、その家族の離散と再集合を描いたもの。多くの人たちの行動や生活パターンを変えるだけの街をデザインする力のある父親が、一番小さなコミュニティである家族の作り方において重大な過ちをおかしてしまう。黒崎煌代くんと木竜麻生さん演じる姉弟の親世代とのクールな距離に痺れました。黒崎くんの言葉や監督の提唱するスタイルからかなりエネルギーをチャージしました」。
映画『愛されなくても別に』
毒親、虐待、性暴力など家族間で生じる問題から社会のひずみに切り込みつつ、その世界をサバイブする宮田陽彩と大学の同級生でバイト先の同僚の江永雅の清々しさと、不幸中毒からの脱却までを鮮やかに描く。監督:井樫彩 出演:南沙良、馬場ふみかほか
映画『見はらし世代』
渋谷の街を舞台に関係を見直そうとする家族を描く。「今年のカンヌ国際映画祭に日本映画史上最年少で選出された監督の長編デビュー作。タイトルは造語で、見はらすと世代を掛け合わせたもの」。監督・脚本:団塚唯我 出演:黒崎煌代、遠藤憲一、木竜麻生ほか
『クロワッサン』1155号より
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