「いか文庫」店主・粕川ゆきさんの、今年心に刺さった本セレクション──読みながら号泣した自分自身に驚きました
優れた物語に触れる時間は、せわしない日常を忘れさせてくれるもの。「いか文庫」店主の粕川ゆきさんに、今年を彩った名作を紹介していただきました。
撮影・土佐麻理子 文・小沢緑子
『マザーアウトロウ』
金原ひとみ 著
波那の前に突如現れた義母・張子。「俺らマブになろうぜ」という言葉どおり、嫁姑を超えた絆が生まれる。「自分をちゃんと愛してあげようと思える一冊です」。U-NEXT 990円
『私の孤独な日曜日』
月と文社 編集
17人の書き手による、“映えないからこそ、愛おしくなる”孤独を含めての休日のひとり時間。「人によってこんなにも語り口が違うのかと楽しめます」。月と文社 1,980円
『成瀬は天下を取りにいく』
宮島未奈 著
「自分自身の青春時代はだいぶ前に過ぎ去ってしまったけれど……という年代でも、清々しい気持ちに満たされて力が湧いてくる青春物語です」。新潮文庫 693円
「今年“読み終えたくない!”と思わせてくれた小説が、金原ひとみさんの『マザーアウトロウ』」と、店舗のないエア本屋「いか文庫」店主の粕川ゆきさん。
40歳の主人公・波那が姑っぽくない義母との衝撃的な出会いから怒涛のように進んでいく物語で、「読んでいる最中、この姑さんがずっと横にいて“あなたはあなた”“そのままで充分”と話しかけてくれる感覚が。彼女の言葉はどれもざくざく心に刺さるものばかり。いつの間にか救われたような気持ちになり、号泣していた自分に驚きました。40代、50代になると誰でも何か乗り越えてきたものがあると思いますが、“人生は自分のもの。いくらでもやり直せる”というメッセージが伝わってくるような一冊」。
『私の孤独な日曜日』は、装丁とタイトルに「孤独」とあることに惹かれた。
「45歳を過ぎて急にひとりでいる楽しさがわかってきて。書き手は世代も職業もバラバラ、ほぼ無名の方たちで、自分もひとりでいる休日を書き留めておこう、と愛おしい気持ちを抱かせてくれます」
『成瀬は天下を取りにいく』は文庫化されて読んだら、「こんなにも中2女子に魅了されるとは! とワクワク。主人公の成瀬は一見突拍子もない言動をしますが、揺るがなさに惹かれていきます」。
物語が成瀬の周りの人たちの視点で語られる点も良いところで、「まるで友だち同士で“成瀬ってすごいねぇ”“私も一歩踏み出してみようかな”と言い合っているような面白さがあります」。
『クロワッサン』1155号より
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