『ファイティング・チャンス』ルイーザ・リード 著 金原瑞人、八木恭子 訳──いじめを受ける少女が始めたのはボクシング
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
青春小説の良作が多いことで注目している岩波書店の「STAMP BOOKS」シリーズ。新作『ファイティング・チャンス』は十六歳の少女、リリーとその母親の物語。リリーは学校でいじめられている。読み進めると分かるのだが、彼女は身体が大きく、それを揶揄されている。リリーの母親も同様で、託児所で働いていたが保護者から苦情がきて、解雇されてしまった。以来家に引きこもり、過食症となってしまったようだ。
悪質で暴力的な嫌がらせを受けるリリーを見かね、父親は彼女にボクシングを教え始める。そんなリリーの一人称文体の合間に、母親の独白も挿入されていくのだが、彼女の心にも変化が訪れていく。人生を諦めていたような母娘それぞれが、自分の未来を変えようと踏み出していくのだ。
非常に簡潔で研ぎ澄まされたリリーの一人称文体が印象的なのだが「訳者あとがき」によると、ここ十年ほど、英語圏のヤングアダルト小説は散文詩で書かれたものが増えてきたという。そういやこの欄で紹介したサラ・クロッサン『タフィー』も散文詩形式だった。SNSなどで短文が好まれる昨今、日本でもその形式が増えていくだろうか。読んでみたい。
『クロワッサン』1153号より
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