月4万円の年金を主軸にした1日1,000円の節約生活──美術エッセイスト・小笠原洋子さんの工夫やセンスが光る楽しい暮らし
撮影・黒川ひろみ 文・恒木綾子
東京郊外にある団地の高齢者向け3DKで、ひとり暮らしをしている美術エッセイストの小笠原洋子さん。
「65歳でいざ年金を受け取ることになった時、その受給額の低さに愕然としました。20歳から納められる年金に40代で加入した私の受給額は、ひと月あたり4万円足らずだったのです」
それから約10年間、月4万円の年金を主軸に、すでに定着していた1日1,000円の節約生活を墨守している。
「1,000円の内訳は食費と雑費です。以前は千円札を7枚財布に入れ、1日1枚使うというルールだったのですが、少し前に足を怪我してしまい、毎日買い物に行くことが困難に。そこで最近は生協の宅配を利用し、食材や日用品は7日分で5,000円を超えないように購入、残金をそれ以外の雑費に充てることで、1日1,000円以内に収めるようにしています」
その他の月の支出は光熱費約6,000円、通信費約1万円、保険料約6,000円、交通費約500円、医療費約1,000円。低所得者向けの軽減賃料として収入により変動がある家賃を除いても、現状は月の支出が4万円を優に超えてしまっている。貯金を切り崩しながらの生活に不安を抱える中で、節約の腕はさらに磨かれていったそう。
さまざまなアイデアを駆使して物をとことん大切に使い切る
「節約暮らしは、“買わない”が大前提。家にある家具は、兄の遺品や廃材のリメイクがほとんどです。例えばリビングの窓際に置いたテーブル(冒頭写真)は、古い籐のスツールを2脚並べた上に、解体した本棚のボードを渡し、更紗のクロスをかけたもの。料理道具や食器類は備え付けの収納に入るぶんだけで、食器棚は置かず、炊飯器もありません。服も30歳から着ているものが多く、なかには20代からのものや、母や父の遺品をリメイクした服もあります。大事に物を扱うことを習慣化して最小限に留めると、空間がすっきりして気持ちまで清々しくなりますし、掃除が楽という利点もあります」
また、なんでもすぐに捨てないことも、小笠原さんの節約生活の基本。
「とくに食品ロスはご法度。私は野菜や果物の皮、お茶っ葉も食べ切りますし、ゴーヤーのワタ、焼き魚の頭なども食べられる限りは食べ尽くします。食品のパッケージや梱包材も捨てません。牛乳パックは広げてまな板として使ったり、値札シールも野菜を袋に入れて保存するときの仮留めテープとして再利用したり。ゴミとして捨てられてしまうようなものでも、まずは何かに活用できないかを考えます」
これだけ徹底していても、小笠原さんは苦にならないどころか、この節約生活を心から楽しんでいるという。
「倹約家の両親のもとに育ち、小学生の頃から貯金が趣味だった私にとって、この暮らしはごく当たり前のこと。我慢している感覚はないですし、むしろ、物を無駄にせずアイデアを駆使して再利用する方法を見つけることに面白さすら感じているんです。きっと、今より収入が増えたとしても、生活スタイルは変わらないでしょう」
そして、「人間の楽しみは貧賤のなかにある」と小笠原さんは続ける。
「貧しさは、私にとってマイナスではなくプラスのこと。物に縛られず、物選びに煩わされず、必要不可欠なものだけで生きる倹約の隣にこそ、精神の豊かさがあると思っています」
持たない、買わない、捨てない。小笠原さんの清々しい生活様式
小笠原さんの仕事とお金の変遷
1982年(33歳ごろ) @京都
離婚、2年後に勤務していた画廊を退職。
1984年(35歳ごろ) @東京
東京に転居。美術館の学芸員と大学の非常勤講師を兼務。
1994年(45歳ごろ)
美術館を退職。以後はアルバイト生活をしながら1日1,000円生活を定着。フリーエッセイストになる。
2005年(56歳ごろ)
東京の実家を処分、郊外の分譲団地を購入。
2014年(65歳ごろ)
年金受給開始。自宅を売却、現在の賃貸住宅に転居。
2019年(70歳ごろ)
節約生活の取材を受けるようになる。
2024年(75歳ごろ)
入院。医療費などがかかり一時的に1,000円生活が崩れる。
『クロワッサン』1146号より
広告