『橋口五葉のデザイン世界』府中市美術館──夏目漱石も愛した華やかなモダン・デザイン
青野尚子のアート散歩。今回は、明治から大正にかけて書籍の装幀やポスター、日本画、洋画、版画とジャンルを超えて活躍した橋口五葉。その多彩な仕事をまとめて見ることができる展覧会『橋口五葉のデザイン世界』。
文・青野尚子
明治から大正にかけて書籍の装幀やポスター、日本画、洋画、版画とジャンルを超えて活躍した橋口五葉。その多彩な仕事をまとめて見ることができる展覧会が開かれている。
橋口五葉は1881年生まれ、日本画家の橋本雅邦の弟子となるが黒田清輝の勧めで洋画に転じる。兄を介して夏目漱石と知り合い、『吾輩ハ猫デアル』の装幀がきっかけとなって漱石の著作の装幀を手がけるようになった。五葉は同時代のヨーロッパで流行していたアール・ヌーヴォーと琳派などの日本の伝統を融合させた華やかで装飾的なデザインで人気を博し、漱石のほかにも泉鏡花ら日本近代文学を代表する作家の装幀を次々と世に送り出している。表紙だけでなく本文にも装飾を施した本などは読み進めるのがさぞ楽しいことだろう。
また日本画と西洋画の両方を学んだ五葉は新たな表現を追求、1907年の東京勧業博覧会に油彩画による屏風絵《孔雀と印度女》を出品した。1911年には三越呉服店の懸賞に応募した《此美人》が一等となる。このポスターは石版を35度も刷り重ねたとても贅沢なものだった。その一方で自ら浮世絵の研究を重ね、新版画と呼ばれる版画を手がける。爽やかな表現は今も新鮮だ。
五葉は1921年、病気のため41歳で没する。決して長いとはいえない生涯だけれど、彼が残した美は色あせることなく私たちの心に響く。
『橋口五葉のデザイン世界』
府中市美術館 開催中～7月13日（日）
ブックデザインという言葉もなかった時代に、画面を花々や小動物で埋め尽くした装幀など先駆的な仕事を手がけた五葉。絵葉書や雑誌のグラフィックデザインでも活躍、彼の新版画はスティーブ・ジョブズも愛したといわれる。
府中市美術館（東京都府中市浅間町1-3都立府中の森公園内） TEL：042-336-3371 月曜休 10時～17時 観覧料一般800円ほか
『クロワッサン』1143号より
広告
