ボブ・ディランを徹底的に研究した有無を言わさぬ説得力「A Complete Unknown」(ティモシー・シャラメ)——高橋芳朗の暮らしのプレイリスト
文・高橋芳朗
ビートルズやエルヴィス・プレスリーと並ぶロック史の最重要人物、ボブ・ディラン。
彼が1960年代のニューヨークを舞台に「フォークミュージックの貴公子」として時代の寵児となっていく過程を描いた映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』が現在公開中です。
劇中で若きディランを演じているのは『DUNE/デューン 砂の惑星』や『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』などでおなじみ、「ハリウッドのプリンス」の異名をとるティモシー・シャラメ。著名ミュージシャンの伝記映画はまだイメージが固まっていない新進の役者が主役に起用されることが多く、ティモシーのような時代のアイコンといえる俳優が務めるのはめずらしいケースです。
『名もなき者』は数ある音楽伝記映画の中でも最高の部類に入る傑作と断言できますが、やはりそれはティモシーの熱演によってもたらされているところが大きいでしょう。彼は実に5年もの歳月を費やして徹底的にディランのパフォーマンスを研究。あの特徴的なボーカルはもちろん、ギターとハーモニカも完璧にマスターしました。
その自信からくるのか、当初あらかじめ録音した音源を使う予定だった音楽シーンはティモシーの強い希望ですべて彼が実際に撮影現場で歌っているとのこと。そんなライブだからこその臨場感が『名もなき者』の有無を言わさぬ説得力につながっているのでしょう。必見です。
『クロワッサン』1137号より
広告