ひとつのことをゆっくり話そう ーー テーマ「プロレス」

長田　プロレスって、普段やってはいけないとされていることを、リングの上ですべてやっているじゃないですか。特に女性ならなおさらだから、私はそこに惹かれます。

世間的にまだまだ、“女子は怒ったら負け”みたいな風潮が根強いけれど、プロレスは感情をむき出しにしてもいいし、怒鳴っても、掴み合ってもいい。あと、多様性が叫ばれる時代になっているとはいえ、いまだに美容誌の表紙になるような女性のイメージはあまり変わってない。

でも女子プロでは、選手それぞれが一番輝ける姿をセルフプロデュースしていて、身長が大きくても小さくても、体重が重くても軽くても、フェミニンでもマニッシュでも……そういう美の基準みたいなものの包容力がものすごくて、個性的で美しい。普段、美容業界の価値基準の中にいる私にとって、それがとても快感で。

尾崎　試合が始まれば化粧なんてぐちゃぐちゃだし、時には顔をボッコボコにされたりするけれど、それでもみんな美しいですもんね。

長田　痩せていることが正義、みたいなピンホールくらい狭い価値観を、女子レスラーたちが自らの魅力でパリン!と叩き割ってくれる爽快感があります。

尾崎　『1985年のクラッシュ・ギャルズ』に、「プロレスラーは女であることから自由な女だ」っていうことが書いてあるんですよね。もともと私は性を感じさせるものが苦手だったんです。だから、そこから解き放たれている彼女たちの姿にすごく憧れるし、女子プロに興味が広がったのも必然だったかなと思っています。

あと、プロレスって敗者に光が当たるジャンルじゃないですか。負けたってかっこいいことが往々にしてある。私はもともと虚弱体質だし、気にしいでネガティブ。以前はそんな自分の弱さを持て余していたんですが、プロレスに出合ってからは、弱いことは別に悪いことじゃないんだなって思えるようになりました。

長田　私は尾崎さんとは逆でもともと気が強いほうですが、プロレスを見るようになって、気の強さを表に出していこうと思うようになりました。

フリーランスで仕事をしていると、自分の意見を押し殺して、相手の言うことを聞いているほうが楽なことも多いんですよね。でもそれが続くと、自分が侵食されているような感覚に陥るんです。女子プロで気の強い女って最高！っていう瞬間をたくさん見たから、“お、ここは私も強い自分を出そうかな”と思ったり（笑）。

プロレスを観ると、器用な裏表みたいなものが必要なく感じられる。

尾崎　確かに、プロレスラーもプロレスファンも不器用だけど純粋でまっすぐな人が多い気がします。

長田　純粋といえば、私、ヒール（悪役）レスラーのマイクパフォーマンスが大好きなんですよ。『おめーの蹴りは全然ダメだな！……でもおめーの負けん気だけはよかったよ』とか、最後に急に褒めたりするじゃないですか。あれ、すごくキュンとしませんか？純粋な、本当の賛辞なんだなっていうのが伝わります。

尾崎　わかります！しかもポイントを確実に突いているんですよね。

長田　マイクパフォーマンスが上手な選手って、本当に頭がいいなって思う。人をすごく見ていて、どこを突いたら観客が沸くかっていうことがわかってるから、観客側も気持ちよく盛り上がれるというか。

尾崎　今は女子プロレスにもさまざまな団体、選手がいますよね。私、最近、X（@ozaki_mugiko）上で「#毎日女子プロレス」というハッシュタグをつけて、1日1試合おすすめの動画のリンクを張って上げているんです。『極悪女王』で女子プロレスに少しでも興味の湧いた人が観てくれたらと思って始めました。

長田　映像でも充分伝わりますよね。

尾崎　初日に上げたのが、「GAEA ISM（ガイヤイズム）」という興行で行われた「橋本千紘 & DASH・チサコ & 岩田美香 vs. 桃野美桜 & 星月芽依 & 門倉凛」の試合なんですが、クロワッサンの読者の方にもぜひ観てほしい！

終盤、桃野選手と橋本選手が一騎打ちになるんですが、覚醒したふたりはファイトスタイルが全然違うのに互いの良さを引き出し合って……息が止まるくらいいい試合です。

長田　お互いに相手のプロレスにリスペクトがあるからいい試合ができる。

私のおすすめは、やっぱり里村明衣子選手の試合かな。1戦選ぶなら「里村明衣子 vs. 紫雷イオ」戦。今、アメリカの団体で活躍する紫雷選手とのシングルマッチですが、女子プロレスの最高峰だと思います。こちらもファイトスタイルも個性も違うけれど、本当に素晴らしい試合。

尾崎　選手でおすすめというと、私の最初で最後の推しは中野たむ選手と決めています。たむ選手って、“宇宙一可愛いアイドルレスラー”って自称するのに、試合では髪の毛振り乱して闘うところが大きなギャップだし、反面落ち込みやすかったりするので、守ってあげたくなってしまうんですよね。

長田　私はDASH・チサコ選手かな。体は小さいけれど気が強くて、ファイトスタイルがカッコいい。あと、やられている時の泣き顔っぽい表情に、浪花節を感じる（笑）。

尾崎　団体でいうなら、ザ・女子プロを見るなら「センダイガールズプロレスリング」と「マーベラス」、華やかさを求めるなら「スターダム」、多幸感を味わうなら「東京女子プロレス」でしょうか。

長田　あとやっぱり来年4月に引退を表明している里村明衣子選手を、現役のうちに観てほしい。ラッキーなことに今なら間に合うので！

スターダム所属。アイドルからプロレスラーに転身。感情むき出しのファイトが観客の心を掴み、2023年のプロレス大賞で女子プロ大賞受賞。

マーベラス代表。170cmという長身で身体能力も高く、デビュー直後から注目されていた逸材。マニッシュな雰囲気で同性ファンも多い。

センダイガールズプロレスリング代表。男子相手にも真っ向から当たる潔さと力強さで、“女子プロレス界の横綱”との異名も。2025年春の引退を表明。

センダイガールズプロレスリング所属。小柄ながら負けん気が強く、スピードを駆使した攻撃的なファイトスタイルでハードな試合もこなす。