映画『2度目のはなればなれ』、イギリスのふたりの名優が"最後に選んだ"感動の実話。
文・兵藤育子
『2度目のはなればなれ』
89歳の男性が老人ホームを脱走。その行き先は……。戦争から戻り、もう離れ離れにならないはずだった老夫婦それぞれの、積年の思いを描いた感動作。監督:オリバー・パーカー 脚本:ウィリアム・アイヴォリー 出演:マイケル・ケイン、グレンダ・ジャクソン 10月11日(金)より、東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国公開。
マイケル・ケインとグレンダ・ジャクソン、ともにオスカーを2度受賞しているイギリスの名優による、約50年ぶりの共演が実現した。ふたりは以前、『愛と哀しみのエリザベス』で夫婦を演じているのだが、今作もやはり夫婦役。映画自体も奇跡のような実話をもとにしている。
2014年夏、イギリスのとある老人ホーム。バーナードとレネの老夫婦は、ここで仲睦まじく余生を過ごしていたが、ある朝、89歳のバーナードがホームを抜け出してしまう。
ひとり向かったのは、フランスのノルマンディー。70年前、史上最大の海上侵攻とされる“Dデイ上陸作戦”がこの地で繰り広げられ、運良く生き残ることのできたバーナードは、記念式典に出席したいと思ったのだ。
一方、バーナードのあずかり知らぬところで、彼が行方不明になったというツイートが拡散。戦争から帰還して、二度と離れ離れにならないと誓ったのに再びいなくなってしまった夫に対して、体調に不安を抱えるレネは何を思うのか……。
歩行器を押しながら旅に出るバーナードは、連合軍として戦ったイギリス人、フランス人だけでなく、敵だったドイツ人、彼よりずっと若い退役軍人などさまざまな人と出会う。
はじめこそ祝福ムードで明るく振る舞うものの、各々が抑え込んできたトラウマは思わぬ形で頭をもたげてくる。そしてレネもバーナードと離れることで、恋に落ちた頃を懐かしみ、ただ無事を祈ることしかできなかったつらい日々を思い出す。
老夫婦の絆を描いた美しい物語である半面、生き残ってもなお人々を苦しめる戦争の残酷さを真正面から描く本作。レネを演じたグレンダ・ジャクソンは映画公開前の2023年6月に亡くなり、マイケル・ケインは同年10月に引退を表明。映画史を彩ってきたふたりの姿とともに、未来へつないでいくべき物語だ。
『クロワッサン』1127号より
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