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【紫原明子のお悩み相談】子どもの部活の監督を好きになってしまいました

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回はずっと独りだったという女性からの相談です。

<お悩み>
40代の主婦です。子供の部活の監督に恋をしてしまいました。
相手は独身です。物腰が柔らかく、見た目もタイプです。
ちなみに、旦那には何回も浮気されました。旦那の携帯を見ると、貴女が好きだ、今の嫁じゃなく貴女と結婚したかったみたいに書かれていてショックでしたが、私も悪いとこがあると反省し、今はうまくやっていますが、心の底からは信用出来なくなりました。
なので、私も好きな人が出来たら、心ではその人の事を好きになろうと決めました。その人と何気ない会話は出来ますが、好きと言いたいけれど立場上言えません。
せめて、そばでそっと見ていたい、出来れば仲良くなりたいです。自分が好きになった人とプラトニックラブでもいいので繋がりたいです。
とうすればいいですか ?宜しくお願いします。
(相談者:かずちゃん/女性/40代の主婦です。子供が小6、5、3年生の3姉妹です。)

紫原明子さんの回答

かずちゃんさんこんにちは。

……そうですか、お子さんの部活の監督に恋されてしまいましたか。私は、主婦がこれまでの常識にとらわれることなく人間として自由に生きられる世の中になればいいと常々願っているのですが、一方で、これは結構難しい問題です。

というのも、実際私の見聞きするところでも、子どもの部活の監督やコーチとお母さんが親密になってしまうケースというのはたしかにあるんです。が、関係ない私が見聞きしているということはつまり、のちにそれがバレて、関係ない人の耳に入るくらいには、大変な事態になっているということです。そうなってしまえば、ともすればお子さんは好きな部活も、家族も、いくつかのものをいっぺんに失ってしまうかもしれません。

いくらプラトニックで良いと言っても、今以上の関係になるということは、たとえば二人だけでちょっと艶っぽいLINEをしたり、ともすれば飲みに行ったりする、ということですよね? わかります。わかりますよ。そういうの、いいですよね。むしろ、そういうのこそいいものですね。しかし残念ながらほとんどの人にはそこで止める忍耐力はありません。そこまでいけたらもうあとはセックスまっしぐら、艶っぽいLINEもお酒もすべて前戯です。

また現実として、監督にとってのかずちゃんさんは、あくまでも教え子の保護者なので、アプローチを誤るとセクハラとなってしまう場合もあります。

そういうことを考えてしまうと、やはり、子どもから近いところに色恋を持ち込むのは、できることなら避けたほうがいいのではないか、というのが私の正直な気持ちです。傍で見ているだけの、今以上の状態を望まないことが、やはり賢明なのではないでしょうか。

……ただ、恋というのはそうやってまわりが冷静に止めたところで基本的には意味がなく、むしろそれが燃料になって余計に大きく燃えてしまったりすることもあるので悩ましいところです。そして何より悩ましいのは、かずちゃんさんの「好き」がほんとうなのか、というのが、いただいたお手紙だけでは今ひとつ見えづらいことです。

旦那さんを心の底から信用できなくなってしまったかずちゃんさんは、“好きな人が出来たら、心ではその人の事を好きになろうと決めました”と書いてくださっています。ここから考えてみると、「監督だから好きになった」というよりも、もしかすると「夫以外の人を好きになりたい」という気持ちの方が、大本にはあるのではないでしょうか。

もしそうだとすれば、「夫以外の人を好きになりたい」のさらに奥にある願いは、「自分を裏切った夫に復讐したい」です。

夫に復讐したいから、誰かを好きになりたい。そんなときに周りを見渡して、一番に目についたのが監督だったとしたら。……それならまだ歯止めが効くはずです。わざわざリスクの大きな場所に手をのばす前に、もう少し辛抱して、かずちゃんさんだけの世界を広げてみる、そこでの出会いを探してみてはどうでしょうか。

たとえば、もし今お仕事をされていないのであれば、週に何日か仕事をしてみるとか。あるいは趣味やボランティアの集まりに顔を出してみるとか。そうやって、誰かの妻でも、誰かのお母さんでもないところで、かずちゃんさんのことを知ってくれる人を増やす。かずちゃんさんの居場所を見つける。まずは、そういうことをされてみるといいんじゃないかと思うんです。

パートナーを心の底から信用できなくなってしまうって、本当に悲しいことです。もう二度と傷つけられなくなる代わりに、いつも孤独でいることを引き受けなくてはなりません。そんな中で、かずちゃんさんはきっとこれまで、本当に気丈にがんばって来られたのだろうと思います。
子どもたちも心配するし、自分が塞いでいたら家の中が大変なことになるし。主婦って、どんなに深く傷ついても、全然痛くないと自分に言い聞かせて、すぐに何事もなかったかのような顔をして生活を続けなければなりませんよね。そうやって、家族の目も、自分の目も、なんとかごまかし続けているけれど、その実もしかしたら、本当は全然癒えていない心の傷を抱えたままになっている、ということはないでしょうか。

いつか復讐してやる、裏切り返してやるという気持ちが、大なり小なり、かずちゃんさんの毎日のがんばりを支え続けてきたかもしれません。……であればこそ、旦那さんに、決して小手先でない、本当の復讐をしてやりましょうよ。

長い結婚生活や慌ただしい子育ての中で、慢心した旦那さんがすっかり軽視した、かずちゃんさん本来の素晴らしさ。妻でも、母親でもない、かずちゃんさんという一人の人間の魅力を、必要とし、より一層引き出してくれるような場所を、見つけてやりましょう。そういう場所でいきいきとすることで、たとえ実りある恋愛があってもなくても、旦那さんに自然と、あなたが軽んじたものはこれですよ、と伝えることができるし、あなたに私の自尊心を折ることはできない、という事実を突きつけることができます。また何より、そういう場所でこそ、かずちゃんさん自身の心の傷が、本当の意味で癒やされていくだろうと思うのです。

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イラスト:わかる
イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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