『家族最後の日』植本一子さん|本を読んで、会いたくなって。
自分と向き合うのはつらいけど、スッキリする。
撮影・青木和義
「インタビュー原稿に “赤裸々” とか “ぶっちゃけ” のような単語を使われたら、修正お願いしちゃいますからね。そんなつもりで書いてないので」
穏やかな笑顔でそう言うのは、写真家の植本一子さんだ。お母さんとの大喧嘩そして絶縁、義弟の自殺、夫のがん発覚など、なかなか人には言いにくいつらいことや悩みを、 “ありのまま” に書いた日記が一冊の本になった。ストレートに入ってくる言葉の数々に、胸がつまるような思いでページをめくってしまう。SNSなどで “理想の自分” を演じがちなこの時代に、なぜこんなにも飾らずに言葉を綴れるのだろうか。
「誰かに残したいからでしょうか。中でも母には、絶縁した今でもわかってほしいと思いながら書いている部分があるのかも。母に “どう思う?” と聞きたい自分が今だにいるんです。また、私自身、このような本にこれまで救われてきました。だからこそ、結果的に誰かの力になればいいなと思います。
書いているときは正直つらいですよ。自分と向き合わなければならないし、1週間分まとめて書いているのですが、だいたい6時間かかるんです。写真を撮るのはとても楽しいのに。でも、書き終わるとスッキリしている自分がいます」
現在も夫が進行性のがんで入退院を繰り返しながら闘病中。7歳と8歳の2人の娘を育てながら看病し、もちろん本業のカメラマンの仕事もこなす。2人の子どもとの関係は、どのようなものなのか。
「つい言い方がキツくなってしまい、後悔することばかり。7歳と8歳、だいぶ手がかからなくなってきたといっても、まだまだ子どもですから。私自身、子どもの頃、愛で満たされなかったので、満たす側に回るのもなかなか難しいところがあります。そもそも子育てに、向いていないのかも」
作中でも、 “一人になりたい” などと後ろ向きな発言が度々出てくる。しかし、都会の真ん中で、夫が不在かつ子どもが2人いる家庭で日々をこなしている植本さんには、強さを感じずにはいられない。
「私だけでは絶対に不可能で、周りに協力してもらわないと、どうにもなりません。追いつめられると頼らざるを得ないというか。周りの人には本当に恵まれていると思います。今日も実は、娘が熱を出してしまって、この本の担当編集さんが看てくれています」
真っすぐに生きる姿に、そして話すうちになんだか楽しい気持ちになってくる植本さんの魅力に、周りの人は手を差し伸べたくなるのに違いない。
太田出版 1,700円
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