渡辺有子さんが実践。きちんと見える大人スタイルの作り方。
撮影・内田紘倫 ヘア&メイク・草場妙子 文・河野友紀
「好きな雰囲気、選ぶアイテムが、もう長いこと……というか、思い起こせば中学生の頃から変わっていません。でも40代に入って以降、体型が変化し、“着られる服”が少しずつ減ってきてしまった。とはいえ、新しいジャンルに挑戦するような冒険心は持ち合わせていないので、〝選べる服の幅〟が、狭まる一方……。八方塞がりな感じがしていて、ここ数年は、正直何を着れば良いのか、本当に悩んでいます」
通っていた中学校が私服だったこともあり、その頃からおしゃれをするのは好きだったという渡辺有子さん。当時から変わらず好んで身につけるのは、シンプルでクセのないアイテム。
「私の職業である料理家という視点から考えると、料理中は特に、例えば優美なドルマンスリーブや、ドレープがきれいな裾のブラウスなどは、必要ないというか、邪魔なのも事実。また、シルクなど繊細な素材も魅力的だとは思うのですが、キッチンで汚してしまうかも……と、つい諦めてしまいます。結果、素材はコットンやリネン、家でザブザブ洗えて、そしてシンプルなデザインの服ばかりに。特に30代以降は、その傾向が強くなっています」
自身の好きな着こなしは? と聞くと、“マニッシュ”という答えが。長く愛してきたそのスタイルを、年相応な形に改めて整えたい、と渡辺さん。
「今回思ったのですが、“女性らしいエッセンス”というのを、私はほとんど取り入れてないのかもしれません。まず、昔から脚を出すのが苦手なのでスカートはほとんど選びません。もし着るとしても、昔なら脚はロングブーツで隠し、今は足首まですっぽり隠れるマキシ丈一択です。ですから今回はかせていただいたミモレ丈のスカートは、人生で初めての丈感! 足首、それも素肌を見せるなんて、今までほとんどしたことがありませんでした」
春らしい色味が印象的な着こなしは、これまでの渡辺さんにはないエレガントな印象。いつもはまとめてしまう髪を下ろし、華やかさもプラス。スタイリストの大沼こずえさん曰く、
「ミモレ丈は、最も大人の品格、そして清潔な色っぽさが演出できるスカートです。足首だけが覗くので、脚がスラッと細い印象を与えられます。また、今回のようにハイウエスト気味のデザインは、トップスを中に入れることで腰が高く見え、スタイルアップ効果も期待できます」
ピンクベージュで色味を揃えたところも、上品さを醸し出す一因。
「年齢を重ねた女性のおしゃれで大切なのは、適度な品格。それを手に入れる一番の近道は、身につけるものの色を1つにまとめる〝ワントーンコーディネート〟にすること。ピンクベージュは大人の女性の肌色を明るく見せてくれる、優しい色なので、特におすすめです」(大沼さん)
アイテムを選ぶとき、カジュアルな要素をどこかに取り入れることも大切。
「今回は、素材でカジュアルさを加えました。ノーカラーのコートは、上質なスウェットのような心地よい生地、スカートはやわらかいニット素材。これがいずれもハリがある生地のものを選んでしまうと、エレガントになりすぎて、逆に老けて見える可能性が。やわらかい素材なら、動くたびに裾がふわっと揺れたり、ラフにまくり上げた袖口から手首が見えたり。女性らしさの演出にも一役買ってくれます」
「冠婚葬祭ほどではない席、たとえば目上の方との会合やホテルでの食事などに着ていく服選びも、ここ最近の課題。悩んだ挙げ句、結果、無難に黒……となってしまうのですが、何かもう少し、工夫ができないかと」(渡辺さん)
上品にまとまった雰囲気が作れるブラックは、少しかしこまった場所に出るときには、確かに便利な色。でも、〝ただの地味な人〟になってしまう危険もはらむことを忘れずに。
「フォーマルのときに選びがちなのがリトルブラックドレスですが、黒のワントーンコーディネートという発想もありです」(大沼さん)
今回は、カットソーにガウチョパンツを合わせ、足元はヒールのパンプスを。とはいえシンプルな形を選んでしまうとつまらないので、トップスは生地に凹凸があるフロッキー素材をチョイス。
「光の当たり方によってニュアンスが変わるところが、さりげなくおしゃれです。ガウチョパンツは、センタープレスのタック入り。フォルムに立体感があるので縦長のラインが際立ち、ベルトでつけたウエストマークと相まって、スラリとした雰囲気に見せてくれます。こちらも足首を出して素肌を見せ、着こなしに抜け感を出すと、より一層若若しい印象になります」(大沼さん)
少しツヤ感のあるカットソーの素材や、トップスをインにしてベルトを見せた着こなしに、驚きながらも渡辺さんは少しうれしそう。
「ガウチョパンツ、気にはなっていたんですが、自分なら確実に足首まである長い丈を選んでしまいます。ヒールと合わせることで、こんなにドレッシーな印象になるなんて、びっくり」
定番のデニムは、小物次第で”今”なムードに。
女性に大沼さんがすすめるのは、ゆるめにはけるボーイフレンドデニム。若い頃は定番だったデニムも、ここ数年はすっかりご無沙汰状態。大人の女性に大沼さんがすすめるのは、ゆるめにはけるボーイフレンドデニム。
「腰回りが気になる年代にとっては、ぴたっとしたスキニーではなく、大きめフォルムのデニムを選ぶほうが、逆に体がきれいに見えます。ポイントは小物選び。ロールアップをし、この春注目のアンクルストラップを合わせれば、途端に今年らしいスタイルが完成。上質なアクセサリーやバッグを持つことで、クラス感も上がります」
実はこのバッグ、渡辺さんが30代で初めて訪れたサンフランシスコで購入した、セリーヌのクラッチ。
「こういう小ぶりなバッグ、かわいいので好きなんですが、持ち方がわからなかった。こんなふうにデニムに合わせてもいいんですね。小物を替えるだけで、ニット+デニムという普通の着こなしが、格段に素敵になった気がします。服選びはもちろんですが、ヒールを履いてみたい気持ちが高まりました。キッチンに立たない日には、もっといろいろ挑戦したいです」
『クロワッサン』945号より
●渡辺有子さん 料理研究家/雑誌や広告などで活躍中。アトリエで開催する料理教室も好評。この春は、念願のセレクトショップをオープン予定。
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