角田光代さんが登場、大人のコーディネート塾。
撮影・岡田 潤 ヘア&メイク・茅根裕巳(Cirque) 文・一澤ひらり 撮影協力・北沢書店
着こなしのコツさえ守れば、好きな服を着ていいんですね。
「カワイイものが好きなんです。猫やパンダといった動物の絵柄がついている服だったり、ワンピースならどうしてもAラインに目がいってしまいます。自分でも幼いなって思いますけど」
と角田光代さん。18歳のときパンクロックを通じておしゃれに目覚め、「パンクなものもカワイイ」という感性に従って自分なりのコーディネートを楽しんできたが、年齢を重ねても服の好みは変わらないのが最近の悩み。
「このままでいいのか、でも若作りと思われたくないし、年相応の服にシフトしたほうがいいのか。ジレンマです」
そんな角田さんの相談に乗ったのは、雑誌『オリーブ』『ギンザ』で活躍したスタイリストの木俣歩さん。
「角田さんの雰囲気は、Aラインが似合いそう。私は年相応とか考えず、好きなものを着るのがいいと思いますよ。自分の着たい気持ちが8割で、あとの2割は周囲に不快な思いをさせないよう、TPOに気をつけるだけでいいんじゃないでしょうか」
キッパリとした言葉に、驚きつつも安堵の表情を見せる角田さん。
「みんな、『この歳でこの服、イタくないか?』って気にしているんです。でも、そんなに好きなら着ればいいんだよって言ってもらえるとすごく救われます」
そこでまず、角田さんの普段のコーディネートを見せてもらうことに。ここ最近、角田さんが服を買うのはたいていデパート。流行は特に意識しない。さらに、服選びで鉄則としているのは、試着しないこと!?
「着てみて似合わなかったら、買うのを諦めなきゃいけないでしょう。それがイヤなので、試着せず買います」
これには木俣さんもびっくり。
「買ったものは全部着てるんですか?」
「はい。タンスの肥やしになっているものは、ほぼないかな」
とりわけ猫のトトちゃんを飼い始めてからは、猫柄のアイテムを見るとつい手が伸びてしまう。昨年秋に購入した猫顔プリントのワイドパンツは大のお気に入りだ。すかさず木俣さん、
「好きなものはひとつにして、それ以外はシンプルでシックなものにするといいですよ。ボトムスがプリント柄なら、トップスはベーシックな色や形のアイテムにします。カシミヤのニットなど上質でベーシックなものを少しずつ揃えていけば、これから猫柄が増えても着こなせますよ」
「なるほど! なんだか気が楽になってきました。いままでこんな猫パンツを穿いてスミマセンっていう感じで、ちょっと後ろめたくて(笑)」
ようやく自信を得て、颯爽と猫パンツで登場し撮影に臨む角田さん。その姿に木俣さんも「素敵!」と太鼓判。もう1カットは、こちらも大好きな「アンダーカバー」のTシャツだ。
「好きなのにTシャツが似合わなくなってきて、デニムとしか合わせられないので持て余していたんです。今日はレザーのスカートに合わせてみました。タイツが苦手なので、恥ずかしながらハイソックスなんですが」
と照れる角田さんに、木俣さんは、
「Tシャツそのものより、合わせてだらしなく見えないかがポイントです。首が伸びてヨレていても、仕立てのいいジャケットやシュッとしたタックの入っているパンツを合わせれば、それはそれでカッコよくなりますよ」
角田さんの好みを取り入れつつ、木俣さんがおすすめする大人のコーディネートを試してもらおう。
カワイイものとシックを 組み合わせるのがおしゃれ。
角田さんの雰囲気や作家という仕事を考えて、木俣さんがコーディネートしたのがこちらのスタイル。
「カワイイものを着るなら、逆の方向性を持ったハード系のアイテムを合わせます。甘さのある服にシャープなアイテムを組み合わせると、引き締まって大人のおしゃれ度がアップしますよ」
まず、角田さんが大好きなAラインのワンピースと合わせたのは、シンプルで上質なライダースジャケット。
「結局どこに着ていくのか、何をするのかという目的次第だと思うんです。こんなライダースを合わせればデイリーで着てもいいし、ネックレスをつければパーティにも行けます」(木俣さん)
靴もサボなら外反母趾に悩む角田さんでも心地よく履けて、服装を選ばないと言う木俣さんに、角田さん、
「このスタイルとってもカッコいい!Aラインって甘いものだと決めつけていましたが、要は着方次第なんですね。一見ハードに見えるけど、ジャケットを脱げばノースリーブでエレガントだし、これなら夜のお出かけにぴったりですね。そしてこのサボ、とっても履きやすい!」
レースのスカートにTシャツ。 両極端のコーデは大人ならでは。
いっぽう、Tシャツの大人の着方がわからないという角田さんの悩みに応え、木俣さんがセレクトしたのはレーシーなタイトスカートとカーディガン。
「Tシャツとレースっていう両極端のアイテムですが、だからこそアンバランスな面白さがでてきます」
ポイントはTシャツをインして着ること。ぽっこりお腹とか、意外に人は気にしていないもの。潔くインしてカーディガンなどを羽織れば、きれいなシルエットになる、とアドバイス。
「お腹は隠したいっていう気持ちが強かったけれど、これならインして着る勇気が持てそう。それにロックなTシャツに透け感のあるレースのスカートを合わせる発想がすごい! クールな感じなのに、ネックレスをすれば女らしい表情が出るし、カーディガンでさらに上品な大人の装いになりますね」
これまで集めてきた手持ちのアイテムを、どう組み合わせてどう着ようか、今からワクワクしている、と角田さん。コーディネートのコツさえつかめば、「好きなもの」がそのまま「似合う服」になる。年齢は関係ないのだ。
『クロワッサン』945号より
●角田光代さん 作家/1990年、『幸福な遊戯』で海燕新人文学賞を受賞し、作家デビュー。これまでに様々な文学賞を受賞し、文学界をリードし続けている。著書に『拳の先』『坂の途中の家』など多数。