堤 真一さんが語る、舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』──「若い頃に戻りたいなんて思いは僕は皆無です」
撮影・小笠原真紀 スタイリング・中川原 寛(CaNN) ヘア&メイク・奥山信次(B.sun) 文・黒瀬朋子
言わずと知れた実力派俳優・堤真一さんは、このたび中村倫也さんと舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』に出演する。ベテラン俳優のロバートと若手俳優のジョンが劇場のあらゆる空間で対話する二人芝居。堤さんは約30年前にも本作に出演し、ジョンを演じた。
「当時の舞台のことは、セットも衣装もほとんど覚えてないのですが、ロバート役の石橋蓮司さんの表情はすごく記憶に残っています。ちょっといい加減な親父風で、とてもチャーミングでした。自分も蓮司さんの役をやるような年齢になったのかと驚いています」
ロバートは批評家や観客、共演者に対して腹で思うことや、「芝居とは」と独自の論をジョン相手に語り続ける。同じ俳優として共感するところはあるかと尋ねると「こんなふうに語る人、現実にはいないですから」と笑った。
「ロバートは、彼から芝居というハシゴを外したら、生きる目的すら失ってしまうかもしれないくらい危うさのある人。若い人に対してこれほど競争心を持っているのもすごいなと思います。僕は年をとることに抵抗はないですし、若い頃に戻りたいなんて思いはひとかけらもない、皆無です」
20~30代は余裕もなく目の前のことで精いっぱいだった。年齢を重ね、ようやく落ち着いてものを見られるようになってきたのに、あの苦しかった時代に戻りたいとは思わないと続ける。
「経験を積んで自信がついたということではないんです。僕の父は僕が20歳の時に60歳で他界しましたが、自分も去年その歳を越えました。それまでは死なんて意識することはなかったのに、『誰でもいずれ死ぬんだよな』とあたりまえのことを実感できるようになったら、不思議と楽になった。小さなことに右往左往しなくなったんです」
そうした意識の変化も芝居に生かせるのが俳優業のよいところだという。
「本当にありがたいです。その年齢ごとにできる役柄がありますからね」
人生の後半戦をどう生きるべきか、悩む人は少なくない。堤さんはどんなビジョンを描いているのだろう。
「ビジョンは全くないです。こういう60代になりたいと思ってなったわけではないし、先のことはわからないですよね? 過去を思い悩んでも変えられないし、何の身にもならない。『どうしたら今を楽しめるか』を考えるしかないのではないかなと思います。日々のことに追われていても、1〜2分間、心を落ち着けることはできるはずです。そういう時間がこれから大事になってくるんじゃないかな。僕もとりあえず目の前の芝居のことをちゃんと考えないと、と今は思っています(笑)」
『クロワッサン』1149号より
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