オーガニック直売所「タネト」で出合った、豊かな地元の食材と日々の営み
写真、文・クロワッサン編集部
オーガニック直売所「タネト」があるのは、長崎県南東部・島原半島に位置する千々石町(ちぢわちょう)。何の変哲もない田舎道に突然現れる素敵な空間だ。
扉を開けると、地元の本当においしいものに出迎えられる。まず目についたのは、見たこともないような野菜たち。
ジロジロと観察していると、ちょうど農園を営む松崎さんが野菜の納品にやって来たので少しお話を伺うことに。
もともとは趣味で家庭菜園を楽しんでいたという松崎さん。「自給自足」の生活に憧れ、野菜を作り始めたのだそう。退職を機に、思い切って3反(3,000㎡)の畑を購入し、そこから米の栽培もスタート。自身の農園「マツザキ自然農園」を作るに至った。
ここ「タネト」には、店主の奥津 爾(おくつ・ちかし)さんオーダーの“珍しい、他には置いてなさそうな種類の野菜”を栽培し、定期的に卸しているそうだ。
しかしこの酷暑。さらに私が帰省したタイミングは、連日35℃を超える猛暑日が続いていたため、農園での野菜の育ち具合いが気になり、聞いてみると面白い回答が。
「こんなに暑いでしょう。そのせいか、今年はインド原産の野菜の生育がいいんです」
上の写真にうつる「カボッキー」もインド原産のもの。切ると中身が黄色い。和食にも洋食にも使える汎用性の高い野菜で、鮮やかな黄色により料理が一気に華やかになる。味わいはズッキーニに似ているものの、もう少し濃厚で、炒めても、汁ものにしてもおいしいのだとか。
他にも、店内には店主・奥津さんが厳選した新鮮な野菜の数々。
「タネト」では、雲仙の地で40年以上“種を守り継ぐ”唯一無二の農家・岩﨑政利さんの育てる、貴重な玉ねぎやじゃがいもも入手できる。奥津さんはもちろん、名店のシェフがこぞって使いたがる野菜たちだ。
一度食べると決して忘れられなくなるみずみずしさ、味わいの豊かさには感動さえ覚えるところ。
「タネト」には、野菜の他に地元の食材や調味料、お菓子・パン、お土産も並ぶ。
この日は、陶芸家・松村英治さんの「デットストックの器展」が開催されていた。定期的に、いろんな作家の規格外の器を入手できる機会も開かれているそう。
私が訪れた日は、あいにくの天気にもかかわらず、東京の美術大学の講師陣や観光途中に評判を聞きつけて立ち寄った人、地元民で賑わっていた。
ただのよくある「直売所」ではなく、その地で採れた食材を丁寧に目利きし地元へ届ける「タネト」は、そこに根差す豊かな食の魅力に気づかせてくれる。近くに出かける機会があれば、ぜひ訪れてみてほしい。
広告