『上田義彦 いつも世界は遠く、』神奈川県立近代美術館 葉山──変化し続けるものの瞬間を写しとる
文・青野尚子
自然や都市の風景、著名人のポートレイト、広告写真など幅広い分野で活躍してきた写真家、上田義彦。公立美術館では約20年ぶりとなる個展が海に近い美術館で開かれている。40年に及ぶ活動を約500点もの作品から振り返る展覧会だ。
上田は1957年生まれ。1979年に写真の専門学校を卒業後、写真家の福田匡伸、有田泰而に師事し、1982年に独立する。その後、ネイティブ・アメリカンの聖なる森を訪れて撮影した『QUINAULT』、舞踏家・天児牛大(あまがつ・うしお)のポートレイト集『AMAGATSU』、1993年に結婚した桐島かれんから贈られたライカM4で家族を撮った『at Home』などの作品を生み出す。近年では屋久島や奈良春日大社など3つの原生林を撮り下ろした『FOREST 印象と記憶 1989-2017』、偶然に出会ったリンゴの木を撮った『林檎の木』などのシリーズがある。2019年には主人を亡くし家屋の相続税に翻弄される人々を、家と庭の四季の移ろいを通して描いた映画『椿の庭』の監督・脚本・撮影を手がけた。
撮影するとき彼は「Shoot from the hip」、ガンマンが腰のホルスターから銃を抜いた瞬間に撃つように、余計なことは考えずにシャッターを切るのだという。彼が撮る木は花を咲かせて実をつけ、その実や葉が落ちて冬を迎える。子どもたちはくるくると表情を変えながら成長していく。彼の写真には取り戻すことができない瞬間が写し取られている。
『上田義彦 いつも世界は遠く、』
神奈川県立近代美術館 葉山 開催中〜11月3日(月・祝)
作品はすべて、上田義彦自身が現像・プリントしたもの。未発表の初期作品やチベットの人々を撮影した最新作、これまで見る機会の少なかった映像作品も並ぶ。
『クロワッサン』1147号より
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