#02ブルガリアで出会った婚活中の女子と愛について考えた。
文/写真・とまこ
さて、先日ブルガリアの首都ソフィアから、黒海の街ヴァルナまでゆく電車の中で一緒になったマリアとのお話をしましょうか。
ちなみに今はベルギーの電車の中で、ヨーロッパの取材旅中です。ユーレイルパスを持っていまして、使い勝手に感激してますよ。この紙っぺら、まるで水戸黄門の印籠! これさえ見せればヨーロッパの大抵どこでも行けるし、いつもファーストクラスのシートに通されていい気分です。
これまでのわたしにとって、海外の電車と言えばインド。超満員の車内に耐えきれず網棚に昇って救われたり、3人掛けのイスに6人仲良く座り「やればできる!」と妙な達成感を覚えたり。自分の寝台に行くとターバンのじいさんがそこに寝てて、なんか悪いから一緒に座ってたり、とかね。海外は多かれ少なかれ、どこでもそんなものだと思い込んでる節ありました……。
それが、いつもこの社長シートとは。使い始めて数回は、前はたまたまよかったけど今度は……とココロのどこかで疑ってる自分がいて、これまでの旅のタフさをつきつけられましたよ(笑)。でもちゃんと、6人コンパートメントに通されてまた感動する、が繰り返されて。イスはふっかふかの広々。秘書がヒールのカツカツ音をたてながら「マガジンハウス会長さまからご連絡です」と車内会議中のわたしのところに仕事用iPhone7を手渡しに入ってきそうなほど満足な個室っぷり……架空ばかりですみません(*路線によって、イスやコンパートメントはかわります)。
そんなセレブなわたしが、車窓にうっとりしながら、ブルガリアNo.1旨安ベーカリー(自分調べ)で買った大きな手作りソーセージパン約90円をかじっていると、大荷物(わたしのバックパックほど大きい人は皆無だけど)の女性がわたしのいるコンパートメントに入ってきました。手にしているのは、ランドセル3個分サイズのボストンバックと、パンパンの紙袋。
あわてて乗り込んだのか、ちょっと髪と息が乱れ気味。でも贈ってくれたニコリには、奥ゆかしくあったかい何かが詰まってて。彼女は、はす向かいに座り一息つくと、袋からアレを取り出します。前回書いた例のアレ、お肌にいいヨーグルト。やっぱり大胆な400mlパック! ほんとにここで開けちゃっていいの、そのサイズ食べきれる? 余計な心配をするのも束の間、ぱっぱと開けて食べはじめました。
「ドバルデン(ブルガリア語のこんにちは)。この国のヨーグルト、おいしいですね。いつもそのサイズを一回で食べるの?」
「え? そうよ、もちろん!」聞かれたことが不思議なくらいの当然っぷりらしい。そしてすぐ、
「食べてみて、今日のはすごくおいしいわ」
とシェアしてくれるこの感じ。
「さっき初めて買ったメーカーだけど、いいチョイスだったわ」
一見おしゃべりには見えないけど、気さくでうれしくなりますね〜。
「ブルガリアのヨーグルトはお肌にいいんですよね!」
「そうね……でもストレスで荒れちゃったのよ。歯も大きな治療をしたいし。いい病院があるのはやっぱりソフィアなのよね」
彼女はルーマニア国境の方、ソフィアから直通電車で12時間の小さな街に住んでいるスーパーの店員さん。4日間のお休みをとって、往復に2日、街滞在に2日かけた旅行の最後。治療のついでに友だちにも会えるからうれしいって。
「あなたは学校のお休み?」自分で言うとヘンだけど、わたしは見た目が幼い。もともと大人っぽい顔立ちのヨーロッパ人から見たらなおさら。でも実際は結婚&離婚済みで、この事実は初見の女性と暮らしについてお話するにはなかなかいい条件だとわかってきました。会話の入り口で相手に与える気安さと、実年齢や「離婚」というワードによる親近感。ソレ言ってくれるならわたしも話すわよ〜、みたいなね(笑)。
彼女は35歳の独身。今、仕事もプライベートも精神的においつめられてお疲れ気味と。「早く結婚したいわー」とため息まじりの本音をもらしたあと、「できるならね」と笑う。
「日本には35歳で独身の人なんていっぱいですよ。したくない人もいるし。結婚してても子供はほしくないって人もいるしね」
「なんで!? 淋しくないの? 老後はどうするの? はは〜ん、国が面倒見てくれるのね、わたしたちはそうはいかないわ、だから絶対結婚して子供産まないといけないのよ」
彼女の話からは「将来の安心」が一番の理由で結婚と子供を望むことがありありと伝わってきます。離婚経験ありのわたしは、将来なんて実際はわからない、という考えが頭のどこかに居座っていて、結果、「今」を以前の数倍大切に感じるようになりました。だから、今、愛で満ち足りたい派ですね。
試しに「愛も大事でしょ」とふっかけてみたけど、みじんもなびかず。田舎暮らしの影響もあるんだろうなぁ。はたまた、「愛」は大前提過ぎて口にしないだけなのかな。
「だからね、祈るのよ、4年前から祈ってる」
そう言って教えてくれたのは自分が信じる指導者。それで本人が少しでも平和なココロでいられるなら、それはそれでいいことですね。
試しに、日本の婚活パーティのようなものはないのか聞いてみたけど、そんなのは無いと。もし婚活産業がこの国にもあれば、彼女は指導者に祈らないかも? てことは、婚活は一種の宗教ですな。
「ここ、ファーストクラスだったのね、知らなかった! セカンドクラスに行くね。そうだ、このヨーグルトあげるわ、グッジョブな味よ」
大きい荷物のマリアとハグをすると、さようなら。淋しいな……。
残してくれたヨーグルトをパクリ。とっても濃厚で、ちょっと酸味があって。最終的には牛乳の自然な甘みが口に残るんです、すごくおいしい。
人生もそんな感じなんじゃないのかな。いろいろあってもモノゴトはきっとうまくいく。今満足いかないなら、きっとそれは発展の途中。ヨーグルトって深いですね〜。