『できることならスティードで』著者、加藤シゲアキさんインタビュー。「自分が主人公でいいので、楽に書けました」
撮影・黒川ひろみ(本)
「自分が主人公でいいので、楽に書けました」
『小説トリッパー』連載時から好評を得た加藤シゲアキさんのエッセイが、一冊の本になった。日本文藝家協会が編纂する「ベスト・エッセイ2018」にも選ばれた『岡山』では、当地に住んだ祖父との忘れがたい惜別を。冒頭、ノートルダム大聖堂の火災のニュースから始まる『パリ』では、ボリス・ヴィアンに憧れる初心な旅行者だった9年前の自分との邂逅を描く。ほかにもキューバ、大阪、ニューヨーク、渋谷など。つまりこれは旅にまつわるエッセイ集だ。
「取り組みとしては、小説と変わらないと思います。ただエッセイは、登場人物のことをあまり考えなくていいというか。自分が主人公でいいので、実際に自分の身に起こったことを書き起こしただけで。たとえば『岡山』は、岡山に帰った時の祖父について友人に話したら、泣きだしたりしてくれた。じゃあ文章にしてみようと思ったわけなんですが、僕としてはあれがいちばん書きやすかったです」
初小説は『ピンクとグレー』。ジャニーズのNEWSのメンバーが小説家デビューしたと話題になった。小説は映画化され、文庫になって現在も読まれ続け、累計45万部の大ヒットとなった。その後も文芸誌を中心に小説連載を続けること8年。現在では合計5冊の小説と1冊のエッセイ本が書店に並ぶ、人気作家のひとりである。
進んでいる方向が正しいのか? 間違っているのかもしれない。
「ただ実感がないんですよね。小説を書き終わっても、これ、誰が読むんだろうなーと。変ですよね(笑)。感想をもらったりすると、それなりに読んでくれているのかなとは思いますが。成長ですか? 上手くなろうとは思ってますが、初作を書いた時のほとばしった感覚はないですし、面白いかどうかも分からない。上手くなり方が間違っているかもしれないし、自分の進んでいる方向が正しいのかどうかも。永遠のテーマですよね」
東京ドームで5万人のファンを前に歌い踊る日もある。一方で、入稿してからゲラが出るまで、または校了してから本の発売までの、誰からも評価を受けない空白の時間が何より好き、無敵だと笑う。書くことって、楽しいのだろうか。
「楽しい時のほうが少ないです。むしろ、楽しんだら終わりですよね(笑)。人間を見つめることって、明るい行為ではないと思うんです。僕は元々、心根が明るいわけじゃないし、ひとりっ子なので自分を内省的に見ていたところもあったかもしれない。だから、書くことは楽しくなくても、書いていない時のほうが、むしろ苦しかったです」
加藤さんが望むことは「書き続けられる環境にいること」。心に溜まった何かを言葉にする、作品を生み出すことで不安はなくなり、それ以上のことを望まなくていい。
「恵まれた立場にいます。ただ、一度立ち止まるとまた始めるのは大変だから。この1年で40万字は書いたんじゃないかな。書いてるうちに、またいろんなチャンスに出合えたらいいなと思ってます」
加藤シゲアキ(かとう・しげあき)さん●1987年、広島県生まれ。2012年、小説『ピンクとグレー』で文壇デビュー。現在は『小説新潮』で長編小説『オルタネート』を連載中。自身が所属するグループ、NEWSの最新アルバム『STORY』が発売中。
『クロワッサン』1022号より
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