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ジョージア映画界の名匠が 風刺とともに描く家族再生劇。『葡萄畑に帰ろう』(文・ 永 千絵)

  • 文・永 千絵
ジョージアの伝統的な歓待スタイルで、ギオルギはドナラと結婚式を挙げる。

個人的には“グルジア”の響きがまだ耳馴染むジョージアという国名を聞いて最初に頭に浮かんだのは、関取・栃ノ心……! 映画がすぐに思い出せなかったのが恥ずかしいかぎり。最近の公開作だけでも、思春期の少女たちの揺れ動く心情を描いた『花咲くころ』は素晴らしかったし、ジョージアで撮影され、出演俳優がジョージア出身の『独裁者と小さな孫』は忘れられない。心に残ったジョージア作品たち、いろいろあったのに……。

そんなジョージア映画人たちの尊敬を集める長老、御年85歳のエルダル・シェンゲラヤ監督の21年ぶりという新作『葡萄畑に帰ろう』は、CGをふんだんに使ったコメディで、家族の再生を描いたホームドラマで、なにより皮肉な風刺劇。おじいちゃん(と呼ばせてほしい)の駆使するCGのまったり感は、なんともいえない愛らしさで、その空気感に思わずのんびりした気分で観てしまうかもしれないが、内容はかなりシビアなものになっている。

大臣の座を追われ、葡萄園を営む故郷に戻ったギオルギは、久しぶりに母と再会する。

“国内避難民追い出し省”の大臣ギオルギは新しい立派な椅子を手に入れて有頂天。広い大臣室で椅子と戯れる様子は『独裁者』のチャップリンを彷彿とさせるけれど、“追い出し省”のトップとしては、ギオルギは気の弱い男のようだ。案の定、といってよいのか、選挙で敗れたギオルギは大事な椅子だけ持って大臣室を追われ、機転の利く部下だった男に、在職中に手に入れた屋敷を追い出さないでくれ、と泣きつく始末。

ソ連崩壊後のジョージアで、一時政界に身をおいていたシェンゲラヤ監督の実際の見聞に基づいて描かれた政治の世界の奇々怪々は、どの国のどの時代にも通用する薄気味悪さと滑稽さにあふれている。

追い出すべき避難民の美しい女性ドナラに恋をし、娘の婚約者の肌が黒いと知って困惑し、無職でも養わなければならない可愛い息子と義理の姉がいて、ギオルギの周辺はプライベートもなにかと慌ただしい。

公私共にざわついた状態のギオルギは久々に両親の葡萄畑を訪ねる。ジョージアはワイン発祥の地でもあるらしい。心の故郷ともいえる場所で、ギオルギは果たして心身の平穏を取り戻すことができるのだろうか。

窮地に陥ったギオルギは、記者たちから厳しい質問を浴びせられる。

『葡萄畑に帰ろう』
2018年、ロシア・アカデミー賞最優秀外国映画賞を受賞。監督・共同脚本:エルダル・シェンゲラヤ 出演:ニカ・タヴァゼ、ニネリ・チャンクヴェタゼ、ナタリア・ジュゲリほか 12月15日より、東京・岩波ホールほか全国順次公開。http://www.moviola.jp/budoubatake/

永 千絵(えい・ちえ)●1959年、東京生まれ。映画エッセイスト。VISA情報誌の映画欄、朝日新聞等に連載を持つ。

『クロワッサン』986号より

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