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脳がはまりやすいムダ遣いの罠とは?

お金に無頓着、家計簿をつけたこともないという島村菜津さん。ムダ遣いは脳のクセだという菅原道仁さんに、脳がハマりやすいムダ遣いの罠と対処法について聞きました。
  • 撮影・岩本慶三 文・一澤ひらり

島村菜津さん(以下、島村) 先生の本の中に、お腹が空いている時にスーパーに行くと余計なものを買ってしまうとありましたが、私もよくやってしまうんです。今夜の食事の分だけなのに、2.5食分くらい買ってしまいます。

菅原道仁さん(以下、菅原) 人間は空腹になるとグレリンという食欲増進のホルモンが分泌されるんです。いっぽう睡眠が不足するとレプチンという食欲抑制ホルモンが減少することもわかっています。そんな時にスーパーやコンビニに買い物に行けば、余計に買ってしまうのは当然なんですね。

島村 私はひとつのことに集中していると周りが見えなくなるので、客観脳がないんです。長い原稿を書き終わった時などに、自分へのご褒美として元気が出るオレンジ色の服を買うことにしているんです。そうするとオレンジの服が目に入るとデザインがイマイチだったとしてもつい買っちゃって、結局人にあげちゃったりする。

菅原 それは買い物することでストレスを発散させているんですが、実はドーパミンという脳内物質が分泌されることでもたらされる一時的な興奮にすぎません。すぐに消えてしまいます。

島村 どんな時にドーパミンは出やすいんですか?

菅原 これ半額だからお得、買ってよかったっていう快感がドーパミンです。一番期待値が盛り上がった時に出るんですが、出たら終わりで、買って所有するとその瞬間に消えていくんです。

島村 どうしたらいいんですか?

菅原 ドーパミンに打ち勝つためにはこれを本当に私は買いたいのかと、踏みとどまって省みることが肝心です。オレンジ色の服を見たら買いたくなるというのは反射的な習慣になっているわけですから、これは脳が勝手に言っていることだと認識できれば、グッとこらえることができます。

ムダ遣い防止には現金派よりも、カード派が優勢。その理由とは?

島村 ネットでは2回ほど服を買って失敗しているんです。似合わなかったり、生地がイマイチだったり。しかもいまだに毎日何本も宣伝のメールが届きます。メールを拒否する方法がこれまた難しくてーー。もう広告地獄ですね。『ボウリング・フォー・コロンバイン』という映画で、「口が臭いとモテないぞと歯磨き粉を買わされ、ニキビ面じゃ女に相手にされないと薬を買わされる。恐怖を煽る消費社会なんだよね」というようなセリフがありましたが、そのとおりになっている状況ですよね。

菅原 売る側は脳のクセを利用してあの手この手で攻めてきますからね。自分が本当に必要なものとか、やりたいこととかがはっきりしていないと、周りの消費を促す情報に自分の思いが書き換えられてしまうんです。

島村 それに日本人はあまりお金の話ってしませんよね。何か下品なような、そのことに時間を費やしたくないような感じがしみついていて。

菅原 確かにお金のことなんて誰からも習ってきてないですからね。でも毎月お金がどれくらい入って、どれくらい使っているかを、ちゃんと「見える化」しておかないとムダ遣いは直りません。

島村 ヤバ〜い。家計簿つけるのはできないけど、ある程度考えなくちゃ。

菅原 つけなくていいんですよ。昔は現金派のほうがムダ遣いが少ないと言われていましたが、実はクレジットカード派のほうがいいとわかってきています。カード明細が家計簿代わりになるんです。コーヒー1杯100円単位のものでもカードで支払えば、明細で支出が全部わかりますから。

島村 友人関係の出費とか、交際費がけっこうあります。カードで支払って家計簿代わりにすればいいんですね。

菅原 1カ月にいくら使ったかわかるように「見える化」することが大切なんです。そこからがムダ遣いを減らすためのスタートですよね。

島村 先生はマーケティングの罠には陥らないんですか?

菅原 いや、たまに陥ってますよ(笑)。ゴルフをするので昔はドライバーがよく飛ぶとかいう謳い文句を見るとつい買っていましたし、自分で車を洗わないのにワックスも衝動買いしたり。

島村 そういうことは誰にでもありますよね。私は古着屋にひところハマったことがあって、これは失敗が多かったです。見た目はよくてお得感があるので買うんですけど、形崩れしていたりして着心地が悪くて、結局はダメだったっていうのがけっこうありましたね。

菅原 古着はお得感プラス一点ものなので買わずにいられなくなる。それに「保有効果」といって、一度手にしたり、着たりすると人は手放したくなくなるんです。気に入らなければ返品OKっていう販売方法がありますが、実は返品率が少ない。それはこの保有効果をうまく利用しているからです。

島村 手にしちゃうとダメなんですね。

菅原 そう、いろんなところに罠はありますね。それに脳は基本的に損したくないというのが大前提で、損を多く見積もるんですよ。

島村 損を多く見積もる?

菅原 たとえば、“1万円無条件にあげます”というのと、“僕にジャンケンで勝ったら2万円あげます”って言われたらどっちを選びます?

島村 無条件に1万円!

菅原 逆に、“僕に無条件に1万円渡す”というのと、“僕にジャンケンで負けたら2万円渡す”、だったら?

島村 それは微妙だな〜。

菅原 堅実な人は1万円を選び、ギャンブル気質の人だったら2万円を選ぶように思えますが、実際はそうなりません。性格に関係なく、期待値が同じでも、あわよくば損をしないほうを選ぶことがわかっています。これはプロスペクト理論といって、得する時と損する時の価値の感じ方を説明した理論で、考案者はノーベル経済学賞を受賞しています。端的に言えば、われわれの脳は得することよりも、とにかく損をしたくないという働きが強い。買い逃した時の損のほうを考えるので限定ものに弱いんですよ。

島村 季節限定、個数限定、カード会員限定……、だから限定品がこの世にはいっぱいあるんですね。

菅原 テレビショッピングでうまいのは個数限定なんです。画面の隅に限定個数が表示されて減っていくでしょう。早く買わないとっていう気にさせられる。「ハロー効果」というもので、女優○○さんのオススメだったり、何かのランキング1位だったり、目立ちやすい特徴に影響されて、他の条件を簡単に変えてしまうのが脳のクセなんです。みんながいいと言ってるから損しないっていう考えなんですよね。

島村 だから2時間行列しても並んでしまうんですね。

菅原 そうです。エネルギーが有限である以上、脳はラクをしたい。通勤の時でも決められた電車、決められたバス、決められた時間に出社するってルーティンが決まっているとラクじゃないですか。ものを買うのもそうで、いちいち考えるのが面倒なんです。

島村 自分の脳にラクをさせず、ちゃんと使わないとダメなんですね。

菅原 ショッピングで衝動買いしてしまう時は脳を使っていないことが多い。だから言い訳が出てくるんですね。店員さんに熱心にすすめられたからとか。

島村 徹夜で原稿を書いたぐらいで自分へのご褒美としてオレンジ色の服を買ってしまうのは、自分に対しての言い訳なんでしょうね。

浪費ではなく、満足度の高いお金の使い方にはルールがある。

菅原 知的労働をした時、脳は疲れているので最もサボりたくなっていますから、オレンジ色イコール私の好きな色って習慣化になっていると、つい買ってしまうんです。とはいえ、それを買って何かのプラスになることがあるのならば、ムダではありません。

島村 オレンジの服を着ると元気が出るんですよね。

菅原 ムダ遣いしないためには、脳は自動的に判断したがるものだと意識することが重要です。でもそうやって節約してばかりの人生も面白くないって僕は思うので、自己投資とムダ遣いの違いを自覚して対応したいですね。

島村 その見極めは難しそうですが、どうすればいいのでしょうか。

菅原 ポイントになるのは、「ストーリーを持つ」ということです。まず、買ったものをちゃんと使うシチュエーションが具体的に描けること。見栄や見返りといった人間の弱点を突いてくるマーケティングの罠に踊らされないストーリーが持てたら、それはムダ遣いではありません。さらにその買い物に自分の成長につながる理由があれば、それは自己投資です。

島村 私も破綻しているようで、自覚していて、今お金を惜しまないのは、食べ物と本と取材費だけですね。

菅原 それは自己投資だから、大いに使えばいいと思います。島村さんにはものに振り回されず、シンプルに生きたいという素敵なストーリーがあって、ブレていない。要は人生にとって必要なものにお金を使えばいいんです。

島村 お金のことを考えるって、自分を見つめ直すことでもあるんですね。

菅原 そのとおりです。そういう意識をもってお金の使い方ができるようになれば、ムダ遣いはなくなります。

『クロワッサン』942号より

●菅原道仁さん 脳神経外科医/菅原脳神経外科クリニック院長。人生の目的を達成するための医療を目指して日々診療に当たる。著書に『身近な人に迷惑をかけない死に方』(KADOKAWA)。

●下村菜津さん ノンフィクション作家/東京藝術大学卒業後、イタリア滞在中の取材をもとにした『スローフードな人生!』(新潮社)が転機に。ほかに『スローシティ』(光文社新書)など著書多数。

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