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社会起業家・渡邊智惠子さん
「今の行動が七世代後に影響する」

社会起業家とは、ビジネスを通して、世の中の問題を解決に導く人のこと。オーガニックコットンの先駆者であり、近年次々と社会貢献の活動を展開する女性リーダーに推進力の秘訣を聞いた。
  • 撮影・清水朝子
渡邊さんの会社「アバンティ」のソーシャル事業の拠点、長野・小諸エコビレッジの森で。

オーガニックコットンの輸入のために 20 数年前に初めて訪れたアメリカで知った言葉を、今でも渡邊智惠子さんは大切にしている。 「『セブンス・ジェネレーション』、つ まり、七世代先(約350年先)のこ とを考えながら生活するということです。もともとアメリカの先住民族の教えで、環境を破壊してしまえば人間は生き延びられないこと、目先の利益のためにツケを子孫に残すべきではないことを彼らは知っていたんですね。テキサスのオーガニック・ファーマーも、神様からの預かりものの土地をきれいな形で返さなければいけない、と。とても腑に落ちる言葉でした」

除草剤や殺虫剤などの使用量が多く、環境破壊につながる綿の栽培を、オーガニックに切り替えることで、土地だけでなく農家の人の健康被害も軽減できることも知った。

「オーガニックコットンを少しでも多くの人に使ってもらうことが社会貢献になる。なんとラッキー! 余計なことをせず、一生懸命ビジネスを大きくすれば世の中のためになる、稀にみる幸運な仕事人生でしょう?」

その幸運をしっかり受け止め、原綿を輸入。紡績から製品までは一貫して日本国内で行っている。世界に誇れる日本の繊維の技術を、オーガニックコットンを通して広めるのだという。

「うちが製品を染色しないのも、そのほうが環境にダメージを与えないから。そして、白や生成りだけでも退屈しない商品にするには、日本の工場の素晴らしい織りや編みの技術でバリエーションを作ってもらうしかない。いい商品を企画してたくさん売れるほど、そういうメーカーも存続していけるのもうれしい。今作ってもらっているのは、全国に160社くらいかしら」

小諸で育てたオーガニックコットン。
オリジナルブラン ド『プリスティン』

渡邊さんの仕事の根底には「四方良し」という考え方がある。売り手良し、買い手良し、作り手良し、回り良し。利己主義では決して幸せになれないし、会社も長く続かない。関わるすべての人々が利益を分かち合うのが大切。

「武士は食わねど高楊枝なんて、私の中にはないわね。きちんとビジネスを成り立たせるのは当たり前です。でも、稼いだお金を自分の贅沢だけに使うのは疑問ね。『愛情をお金で買うことはできないけれど、お金に愛情を託すことはできる』と義父がよく言っていました。これは私の芯になる言葉。無駄なお金は使わないけれど、使うべき時に必要な予算が手元にあるから実現できることってあるのよ」

『クロワッサン』931号より

●渡邊智惠子さん 社会起業家/1952年、北海道生まれ。 明治大学商学部卒業。1985年、株式会社アバ ンティ設立、代表取締役就任。1993年よりオーガニックコットンの輸入を手がける。1996 年、オーガニックコットンのオリジナルブランド 『プリスティン』をスタート。2011年、小諸エコビレッジ設立。東北復興支援「東北グランマの仕事づくり」を開始。2012年、「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」を開始。2013年、福島の子どもに生きるための衣食住を教える「わくわくのびのびえこども塾」塾長に就任。

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※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

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