佐藤さんは1923年の11 月に当時国民的人気を誇る作家・佐藤紅緑(こうろく)と女優・三笠万里子の次女として神戸に生まれる。紅緑に可愛がられて育ち、20歳で結婚するが、戦争から戻った夫はモルヒネ中毒となり、離婚。その後、作家を志し、同志でもあった田畑麦彦と再婚する。田畑は頭脳明晰、哲学的で才能あふれる男だったが、事業に手を出し、莫大な借金を抱える。その借金を回避するため提案された偽装離婚を佐藤さんは呑むが、夫は佐藤さんの知らぬ間に他の女性を籍に入れるわ、その後も気ままに借金に来るわ、家から勝手に金を持ち出すわ。佐藤さんは佐藤さんで、借金取りが面倒だからと、他人の亭主となった男の借金の裏書きをし、三千万円以上を肩代わりすることになる。
「まぁ、あのときの心理は自分でも今、理解できないですよ。当時は面倒くさいばかりで、払やァいいんだろ、払やァ! 金のために大の男が顔色変えるな!っていう(笑)。払える目処なんて全然ないのに」
ーーまだ売れっ子じゃない時期ですよね。
「ぜんぜん。直木賞を取るまではまったく。少女小説を書いてて、原稿料は小遣い程度ですからね」