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【ラグビーW杯】
6つのポイントで注目選手を解説!
日本対スコットランド観戦ガイド。

文・岩瀬大二

対南アフリカ戦、勝利の瞬間。選手の表情からこの勝利が奇跡ではなく彼らにとって必然だったことが伝わってくる。長身のトンプソン(写真中央/近鉄ライナーズ所属)は英国メディアが選ぶ第1ラウンド全試合を通じてのベストフィフティーンにも選ばれた。写真:アフロ

対南アフリカ戦、勝利の瞬間。選手の表情からこの勝利が奇跡ではなく彼らにとって必然だったことが伝わってくる。長身のトンプソン(写真中央/近鉄ライナーズ所属)は英国メディアが選ぶ第1ラウンド全試合を通じてのベストフィフティーンにも選ばれた。写真:アフロ

日本代表の南アフリカ戦の勝利によって、いきなり話題となったラグビー ワールドカップ2015。「すごい!」という喜びの輪が広がり、SNSでは面白おかしいものも含めて、どれだけの偉業か? という話題も。一方「ワールドカップなんてやってたんだ」「そもそもラグビーのルール、知らない」という反応も当然のことながらあった。

早稲田大学対明治大学の、いわゆる早明戦で国立競技場を満員にするなど、20年前まではたくさんの観客を動員していたラグビーだが、今でも注目は学生ラグビー。社会人で構成されるトップリーグや、海外のラグビー、日本代表については注目されていなかった。

いっぽう、実は南半球や欧州ではラグビーは超のつくほどのメジャースポーツ。欧州の伝統的国別対抗戦6ネーションズ(イングランド、アイルランド、スコットランド、ウェールズ、フランス、イタリア)や、南半球の4か国(二ユージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン)の対抗戦やクラブチームのリーグ戦は、多くの観客の中で激闘が繰り広げられている。

そう、ラグビーはメジャースポーツなのだ。

とはいえ、今回の試合で初めて見た人は「ルールが難しい」「選手を知らない」「実力差などいろいろな情報がわからない」という状況だろう。それも当然。これらをすべて紹介するのは難しいので、9月23日に迎える日本の第2戦、対スコットランド戦をにらみ、キーワード別に期待の日本選手や相手側の注目選手を紹介しながら、ラグビー ワールドカップの楽しみ方をご案内していこう。

 

【注目ポイント1】スクラムでの駆け引き。

8人ずつの屈強な男たちが組み合うスクラムは、ラグビーならではの見所。なかでも先頭に立つ3人の、体重100kgを超える最重量級、フロントローと呼ばれる男たちの最前線での押し合い、駆け引きは、ゲーム全体の力関係を決めてしまう重要なもの。今回は、真ん中のポジション、フッカー(背番号は2番)対決がハイライト。日本は堀江翔太。本場ニュージーランド、そして豪州のプロチーム仕込みの華麗なパス(南アフリカ戦でもアクロバティックなパスを披露した)や俊敏な突破力が持ち味の新しいタイプのフッカーだ。対するスコットランドは、百戦錬磨、駆け引きに長けたロス・フォード。新時代対伝統の熟練。実に楽しみなマッチアップだ。

 

【注目ポイント2】ロックのイケメン兄弟。

背番号4と5のロックと呼ばれるポジション。世界レベルでは2mを超える筋骨隆々、ギリシャ彫刻か、巨神兵かという雄大な体格を持つ選手が活躍している。スコットランドには見事なブロンドヘアをなびかせ躍動する205cmの巨人・リッチーと、今大会注目されている世界的なロックのひとりであるジョニーの、グレイ兄弟が君臨。どちらも英国若手俳優のような格好よさで、緑のピッチ上でとにかく目立つ。桜のジャージを選んだアイブス、トンプソン(開幕カードの奮闘でベスト15に選出)との激突は迫力充分!

 

【注目ポイント3】復活のキャプテン。

日本のキャプテン、リーチ・マイケルは6番、ブラインドサイドフランカーという、豊富な運動量が必要とされるモダンラグビーの重要なポジションを担っている。ニュージーランドから来日し、札幌山の手高校に入学。東海大学に進学し、トップリーグ(日本のプロリーグ)では東芝ブレイブルーパスに入団。その後、世界最高峰とされる母国ニュージーランドのプロチームに所属。しかし、怪我に悩まされなかなか活躍ができず苦悩の日々を過ごし、一時はラグビーをあきらめそうになったことも。そこで支えてくれたのが、東海大学時代の同級生、日本人の奥様。26歳、「一度死んだ男」の懸命な姿がチームを引っ張る。

 

【注目ポイント4】でかいばかりじゃない。

9番のスクラムハーフは、俊敏さが問われるポジション。世界各国とも小兵ながらガッツあふれる選手が起用されている。日本代表は田中史朗と、日和佐篤。ともに166cmと小柄。しかし、田中は大型選手を恐れないどころか、逆に脅しあげるようなガッツと思い切りの良いパスワーク、日和佐は世界最速ともいわれるテンポの良いリズムで相手を翻弄する。対するスコットランドは、戦術眼に長けたこのポジションで世界最高峰といわれるグレイグ・レイドロー。パス回し合戦でのペースの握り合いに注目だ。

 

【注目ポイント5】日本のヤングブラッズ。

日本のバックス陣は若手の才能がひしめく。‘92年生まれ、世界でも最高レベルのスピードを誇る筑波大学の福岡(スコットランド戦先発)。医学部を目指すために1年浪人したという文武両道の選手だ。また、’93年生まれ、雄大なストライドと日本人離れしたしなやかな体躯で東福岡高校1年から注目を集め、早稲田大学1年で7人制日本代表に選ばれた藤田。さらにジンバブエ人の父(故人)と日本人の母を持つ、’93年生まれの松島幸太朗。桐蔭学園を卒業後、南アフリカのプロチームで修行し成長して帰国した、強さとスピードを併せ持つ世界レベルの逸材だ。スコットランドが誇る熟練の世界レベル、ショーン・ラモント、トミー・シーモアの大型ウィングとのスピード感溢れるマッチアップは、心躍るシーンになること間違いなし。

 

【注目ポイント6】世界を驚かせるフルバック対決。

スコットランド戦の勝敗を決する最大のポイントになるかもしれないのは、背番号15番のフルバック対決。日本では、南アフリカ戦でも注目を集めた、世界的にもプレイス・キッカーとしてトップクラスの五郎丸歩。自軍の最後方に陣取り、キックの攻防を巡るゲームコントロール、カウンターアタック、時には攻撃のパス回しに参加し突破をはかる。体格に恵まれ、キック力にも優れ、冷静な判断と果敢な突進を併せ持たなければいけないポジションを担う。

スコットランドには、このチームでもっとも警戒すべきスチュワート・ホッグが登場。23歳ながら落ち着いたプレーでチームに安定感と勇気とチャンスを与える、今大会ナンバー1フルバック候補といわれる才能だ。補足すると、なかなかの美青年である。

対する五郎丸も、中学まではサッカーとラグビーの両方で輝き(サッカーでは福岡市選抜にも選出)、名門佐賀工高、早稲田大学で1年からレギュラーとして活躍し、19歳で代表に選ばれた、日本が誇る才能だ。選手としての完成度がピークになった29歳。日本代表の国際試合通算得点記録を更新し続ける黄金の右足は、日本の宝とも言える。負けられない戦いが2人の間にあるだろう。五郎丸がプレースキック時に見せる、侍拝みとも言われる独特のポーズは、彼が憧れたイングランド最高のプレース・キッカー、ジョニー・ウィルキンソンがモチーフ。ジョニーの母国で蹴る1本1本のキックが、五郎丸にとっては勲章となる。

 

スコットランドは、近年の不調もあり、世界ランクこそ低くなっているが、伝統国である。最近は順調にチーム改革も進み、実力と自信を回復し始めている。日本も属するこの組の中では、南アフリカがらくらく4連勝、スコットランドが南アフリカには勝てないが3勝1敗でなんなく突破、というのが大方の予想だった。激闘から中3日で臨む日本に対して、スコットランドはこれが緒戦。日本対策も充分、体力も充分の伝統国に対しての連勝は厳しいことであることは間違いない。

しかし、日本には、今回の南アフリカ戦勝利のような、世界を驚かせる事件を起こしたことがあった。世界の列強と戦って惨敗を繰り返し、勝つことなど夢見てはいけない、とあきらめかけていた1989年。ホーム、秩父宮ラグビー場での対戦ではあったが、当時、最強国のひとつであったスコットランドに大金星をあげたことで、日本のラグビーの未来はつながれた。南アフリカ、スコットランドと連勝すれば、これは日本ラグビーにとって実に大きな意義と意味がある。波乱のない組といわれていたこの組を、一気に死のグループまで高めた日本の偉業を、ここでも期待したい。

そして戦いはまだまだ続く。同格のサモア(10月3日)、10回やれば7回は勝てるアメリカ(10月11日)を相手に予選ラウンドを生き残り、ベスト8に進出すれば、そこにはまた、世界最強軍団のニュージーランド、強豪オーストラリア、開催国のプライドをかけて戦う若きイングランド、生まれ変わったフランス、この夏、南アフリカを倒し、緒戦でニュージーランドを追い込んだアルゼンチンなど大きな壁が立ちはだかる。

いずれのチームにも、魅力的な選手たちがいる。どこまで桜のジャージは突き進むのか? 心優しき酒豪、灰になっても燃え続けるといわれる情熱の大ベテラン大野、ファンタジスタとして華麗なパスワークを誇る小野、田村、日本の秘密兵器、トンガ代表という栄誉を断り桜のジャージを選んだレレイ・マフィ、黙々と職人のごとくピンチを救うブロードハーストなど、大学生からアラフォーまで、実に魅力的な男たちが結集した代表チーム。突き進むごとに、きっとあなたにとって忘れられない選手が見つかることだろう。

ラグビー ワールドカップ 2015公式サイト
http://www.rugbyworldcup.com/

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