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【山本多津也さん × 紫原明子さん】バツイチ・子持ち同士、嗜好品としての恋愛とは。

  • 撮影・清水朝子 文・嶌 陽子

結婚にとらわれない、“半家族”の関係が心地いい。

山本さんが主宰する「猫町倶楽部」では、昨年秋、紫原さんの著書の読書会が名古屋にて行われた。

そんな2人の関係は、付き合い始めてから1年近く経った今も、とても良好だ。山本さんが言った。
「僕が主宰する『猫町倶楽部』という読書会はとても親密なコミュニティなので、離婚後もしょっちゅう大勢の人に囲まれてはいたんです。だから普段は寂しいとは思わなかった。でも、自分の誕生日は、特定の誰かと過ごすわけにもいかないから、いつも一人で、孤独でした。今は、好きな人と一緒にいられる。それがうれしいですね」

紫原さんと山本さんの様子からは、深いところでお互いを信頼し合っていることが伝わってくる。地に足がついた、大人の関係。けれど、2人とも今のところ、結婚は全く考えていない。
「これくらいの会う頻度や距離感が、相手に甘えすぎなくてすむし、すごく心地いい。多津也さんにも、私と子どもたちにすべてを捧げてほしいとは全然思っていません。私にとって彼は、一番身近な他人であり、私たちにいい刺激を与えてくれる、“半家族”のような存在。もしも多津也さんが名古屋を離れて、ずっと東京で生活することになっても、きっと同居はしないと思います」(紫原さん)
「これからもいい関係でいたいとは思うけれど、そのために結婚が必要だとは今のところ特に感じていません。今の日本の社会の制度上、子どもを産んで育てるんだったら結婚したほうがいいと思うけれど。それくらいですね、結婚のメリットを感じるのは。2人の関係を良くしようと努力することと、結婚しているか否かは、関係ないですから」(山本さん)

互いにとって無理のない関係を続けられるのは、2人とも仕事が充実し、経済的にも自立していることも大きい。
「もしも『生活を助けてほしい』といった、どちらかに寄りかかるような関係だったら、もっと重たくなるだろうし、続かないと思うんです。年をとって、離婚も経験してからの今の恋愛は、“必需品”じゃなくて、“嗜好品”だなと思います」(紫原さん)
「僕たちの関係って、いわば“おいしいとこ取り”だよね。日常とは離れた、新鮮な関係を保っていられる。もちろん、自分の都合だけを考えるという意味じゃなくて、相手に困ったことが起きたら、全面的に引き受けるのが前提ですけど」(山本さん)

“嗜好”“おいしいとこ取り”とは言うものの、それ以上に、お互いがお互いにとって、大事な心の支えとなっているのも事実だ。何かに悩んだ時、一緒になって考えてくれる人ができたことで、精神的にとても安定した、と紫原さんが話すと、山本さんも穏やかな表情で言った。
「自分だけのために生きるって、やっぱりつまらない。今は自分プラス、誰かのために生きていると思えるのがうれしいし、生活に張りが出ますね」

10年以上の結婚生活を経て、子どもをもうけながらも、苦悩の末に離婚という選択をした。そんな経験をしてきた2人が今、結婚という形にとらわれずに良い関係を維持しようと、自分たちらしい努力を続けている。
「一番大切なのは、お互いを大事にすることですね。それができなくなったら、関係は終わりにすべき。それは、私自身がバツイチだからこそ、強く思うことです。時々、友人から『パートナーに大事にされない』と相談されるんですが、『だったら、すぐに別れたほうがいい』と言います」(紫原さん)

もうひとつ、2人が大事にしているのは、子どもたちをはじめ、様々な人人と関わってきた者同士ならではの、広く、おおらかな視点だ。
「2人だけの世界で閉じてしまうのではなく、2人で一緒に社会に出て行って、その中で関係を育むべきだなと思うんです」と、紫原さん。
「人間関係って、基本的に三角形だと思っているんです。2人プラス、第三者の目があると、関係がより強固になる。今後も、お互いに独自の世界を持ちつつ、2人で一緒に出て行く世界もある。そんなふうに付き合っていけたらと思いますね」と山本さんも言う。

バツイチ、子持ち。お互いにいろいろあったけれど、だからこそ今、信頼できる相手と巡り会い、新たなかたちのパートナーシップを築いている。山本さんの顔を見ながら、紫原さんが発した言葉が印象的だった。
「人と一緒にいると、大変なこともたくさんあります。けれど、思わぬことが起きるのが面白い。だから、人と付き合うんでしょうね」

紫原明子(しはら・あきこ)●エッセイスト。1982年、福岡県生まれ。ウェブメディアでの連載や寄稿などで注目を集める。著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)。

山本多津也(やまもと・たつや)●1965年、愛知県生まれ。日本最大級の読書会「猫町倶楽部」主宰。本業の住宅リフォーム会社経営のかたわら、年間180回の読書会を全国各地で開催。

『クロワッサン』964号より

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