「住まいは、灯りを変えると一瞬でリフォームと同様の効果を得られます」と、照明デザイナーの長町志穂さん。そのためには“光をデザインする”意識が必要で、注目すべきは壁だという。
「40年前に比べると、日本の住宅は構造がずいぶん変わりました。従来の日本家屋は障子の家。三面が巨大な“光壁”に囲まれて暮らしていたんです。ところが昭和に入り、突然、光を通さない壁に窓が付いた西洋造りの家が次次と建つように。西洋の住宅インテリアは、窓から入る光と室内の照明とでバランスをとる文化があります。壁に絵を飾り、棚に花を置くといった見せ場を引き立てるよう壁際の照明をセットする考え方は、欧米では習慣として自然に身に付いているのです」
一方、引き算の美学を持つ日本人は、住宅構造の伝統的にも、壁や物を狙って照らすという意識が低い。
「そもそも、日本の照度基準は明るすぎるのです。人間の視野の7〜8割は壁を見ているのですから、床面を照らす明るさよりも、いかに壁を明るくするのかを考えるほうが“見える明るさ”がアップします」
まずは、黒子役の灯りの演出。表からは目立たないよう隠したLEDの間接照明を複数使って、といわれる壁などの縦の面を照らす。全体を煌煌と明るくせず、必要な場所を照らす光だけにすることは省エネにもなる。
また、電球自体も重要課題。白っぽい光の昼白色から、あたたかみのあるオレンジ色の電球色へと、“色温度”次第で部屋の印象は大きく変わる。色の再現性を表す“演色性”と合わせて狙いに合った適切な電球を選びたい。
さらに、観葉植物を主役にした照明もムードづくりに効果的。
「庭木やインドアグリーンなど、大ぶりな植物を下から照らすと、空間に奥行きが生まれます。LED技術が発達して、個人住宅でも安全に簡単に照明の色や明るさの調整ができるようになりました。心地いい空間は照明づくりから。ぜひ試してみてください」
色温度(K):点灯中の光の色を表す客観的尺度。色温度が低いと赤みを帯びて、色温度が高いと青みに寄っているということ。単位はK(ケルビン)。目安として、3000K以下であたたかみを感じ、7000K以上は青く硬質な印象に。
演色性(Ra):色の見え方の忠実性を評価する指標。自然光と同等の再現をRa100として、数値が高いほど再現性が高い。