今も昔も電車やバスに乗るときには文庫本がないとダメ、というほど読書好きの山口恵以子さん。だが食わず嫌いというより今まで読む機会に恵まれなかったジャンルがファンタジー。それには3つの理由がある。
「最大の理由は大学時代からミステリーを夢中になって読んできたことですよね。ミステリー小説は幅が広くて数も多いので、ほかのジャンルの小説まで手が回らなかったんです。そもそも優れた小説には必ずミステリー的要素、謎があるものですからね。意志的にファンタジーやSFが嫌いと思っていたわけではなくて、単に機会がなかったということなんですよね」
次に、ファンタジー小説とは「異世界を舞台にした壮大な物語」、という思い込みがあったことも逡巡する理由になったという。仕事や日常のこまごまとした忙しさに追われていると、読んで面白いかどうかもわからない長編小説には、なかなか手が伸びなかった。そして、決定的な3番目の理由が。
「実はこういうファンタジーへの欲求は私の場合、少女漫画で充たされていたんです(笑)。萩尾望都の『ポーの一族』、山岸涼子の『日出処の天子』など。まだ読んだことはないですけど、『指輪物語』『ナルニア国物語』『ハリー・ポッター』シリーズ……、評価の高い一連のファンタジー小説に勝るとも劣らない、スケールが大きくてイマジネーション豊かな漫画は、夢中になってずっと読んできましたから」