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山口恵以子さんが初めてファンタジー小説に感銘を受けた『紙の動物園』。

作家の山口恵以子さんはファンタジー小説が不得意だったそう。でも、ケン・リュウの「紙の動物園」に出会い、その考えが一変したようです。
  • 撮影・千葉 諭、青木和義(山口さん) 文・一澤ひらり

今も昔も電車やバスに乗るときには文庫本がないとダメ、というほど読書好きの山口恵以子さん。だが食わず嫌いというより今まで読む機会に恵まれなかったジャンルがファンタジー。それには3つの理由がある。

「最大の理由は大学時代からミステリーを夢中になって読んできたことですよね。ミステリー小説は幅が広くて数も多いので、ほかのジャンルの小説まで手が回らなかったんです。そもそも優れた小説には必ずミステリー的要素、謎があるものですからね。意志的にファンタジーやSFが嫌いと思っていたわけではなくて、単に機会がなかったということなんですよね」

次に、ファンタジー小説とは「異世界を舞台にした壮大な物語」、という思い込みがあったことも逡巡する理由になったという。仕事や日常のこまごまとした忙しさに追われていると、読んで面白いかどうかもわからない長編小説には、なかなか手が伸びなかった。そして、決定的な3番目の理由が。

「実はこういうファンタジーへの欲求は私の場合、少女漫画で充たされていたんです(笑)。萩尾望都の『ポーの一族』、山岸涼子の『日出処の天子』など。まだ読んだことはないですけど、『指輪物語』『ナルニア国物語』『ハリー・ポッター』シリーズ……、評価の高い一連のファンタジー小説に勝るとも劣らない、スケールが大きくてイマジネーション豊かな漫画は、夢中になってずっと読んできましたから」

「ファンタジー小説は食わず嫌いでした」

ファンタジー小説初心者にぜひ読んでもらいたいという名作をSF小説評論家の小谷真理さんが厳選。山口恵以子さんがその中の一冊に挑戦することになりました。

『紙の動物園』ケン・リュウ

アメリカという英語圏で暮らす移民は親と子のように世代ごとに母語が違うため、うまくコミュニケーションできなくなってしまう。表題作はそういう移民のお話です。不思議なことが起きますが、切ないお話ではあります。(早川書房 1,900円)

『しゃばけ』畠中 恵

江戸時代が舞台です。このお話のポイントは、妖怪です。なんでも古道具が長い年月を経ると、付つくもがみ喪神という妖怪になるそうで、主人公の若旦那とともに、難事件を解決します。妖怪と共生する江戸の風物をお楽しみください。(新潮社 590円)

『本にだって雄と雌があります』小田雅久仁

本と本の間に生まれた、この世にあってはならない本など、いわゆる幻書を管理する深井一族百年の歴史を描いた稀有壮大なファンタジー。書物の魅力と魔力の秘密を解き明かします。関西弁のユーモラスな語り口にもご注目を。(新潮社 710円)

『ハウルの動く城』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

宮崎駿監督がこれを原作に、アニメ映画を作りました。妖精の女王に囚われていた男を、人間の娘ジャネットが助け出すという古い伝説を現代の感覚で語り直してますので、ユーモラスで、ワクワクする冒険物語になってます。(徳間書店 657円)

『香水』パトリック・ジュースキント

フランス革命の時代、世界で最高の嗅覚を持つ男が主人公です。彼は調香師になり世界で最高の香水を作り出します。どんな匂いが探求されたのか、それは読んでのお楽しみ。池内紀先生の芸術的な訳文に酔いしれてください。(文藝春秋 740円)

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