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【書評家・豊崎由美さんの読み方】一冊の本、いったい何回読むんですか?

  • 撮影・小出和弘 文・後藤真子

「飲み会も途中で帰れない」性分の豊﨑さんは、本の場合も「読み止めた先で面白くなっていたら」と、最後まで読まずにはいられない。しかし、「一般の人は、20〜30ページ読んで面白くなければ次にいっていいと思います」。

理由は「まだその本に、その人が選ばれていない可能性があるから」。本が悪いのではなく、読み手がまだその本に追いついていないという意味だ。自身も経験したことだが、年を経て自分に奥行きや広がりができ、多様な読み方ができるようになると、その本を面白いと感じられる瞬間がやってくる。「選ばれた時に読まないと、自分もその本も不幸です。その時の自分が面白いと感じる本を読み続けるのが、本を好きでい続ける秘訣。子どもにも絶対に無理強いしてはいけません。逆に、自分は一年に一冊も本を読まないという人は、きっと、面白いと思う最初の一冊にまだ出会っていないんですよ」

三読を終えた本を上から見ると、付箋や紙片の多さがわかる。「ここまでするど、どこに何が出ているか、だいたい覚えています」

本の面白さには、いろいろある。共感はもちろん、反対の面白さも。登場人物の気持ちがわからない、自分と全然違うという非共感、それを「他者と出会う喜び」ととらえれば、面白さの幅が広がる。「共感だけをジャンプボードにしてほしくないですね」と豊﨑さん。「むしろ反感とか、なかなか理解できない、ちんぷんかんぷんな感じとか、知らない人・ことの発見とか、成熟した読み手には、そういう角度でも楽しんでいただきたいなと思います」

昨今は、誰でも気軽にレビューを発信できる時代。ブログ等で書く際に、気をつけるべき点を聞いた。「最低限、あらすじや登場人物の名前、関係などを間違えないこと。書評は感想文とは違い、その本を未読の人に向けて読みたくさせるためのものですから、自分がまだその本を読んでいないつもりで、レビューを推敲するといいですよ。また、批判をするなら本名で。匿名での批判はやめましょう」

『クロワッサン』955号より

●豊崎由美さん ライター、ブックレビュアー/雑誌等で書評を連載。著書に『勝てる読書』(河出書房新社)、『ニッポンの書評』(光文社)ほか

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