荒汐部屋にはもう一匹の猫がいる。それが3階に住むムギだ。モルとは対照的に、人見知りのムギは力士が寝起きする3階から決して出ない。迷い猫として部屋の前にいたところを引き取られて8年。以来、まんまるの瞳とふわふわの〝麦茶色〟の毛並みで、勝負の世界に生きる力士たちの心をほぐしている。知らない人がいると物陰に隠れる一方、力士たちには甘えん坊。そんなムギが最も心を開いているのが福轟力(ふくごうりき)さん。蒼国来関に「猫バカ」とからかわれるほど、相思相愛の仲だ。
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新進の相撲部屋に運と人を引き寄せる、2匹のまねき猫。
- 撮影・青木和義 文・大澤千穂
「物音を立てずにそっとなでたりするうちになついてくれました。寒い季節には布団にもぐり込んでくることもありますよ。ラブラブ? そうですね、男同士ですけど(笑)」ムギと〝同期入門〟で世話係の突光力(とっこうりき)さんも、その愛らしさにメロメロ。「猫を飼ったこともなかったのに、世話係に任命されて最初はびっくり。でもこのムクムクの体で擦り寄ってくるのがたまらなくかわいくて」
親方、おかみさんはじめ部屋の人は2匹をまねき猫と呼ぶ。おかみさんいわく、「モルが書類に手をのせた契約はうまくいく」そう。人との出会いも運んでくれた。12年前わずか3人だった弟子は12人になり、稽古をすれば窓の外には人垣が二重三重。そんな状況でも物怖じしないモルは、初めての人にも自分から近づいてスリスリとご挨拶。その性格で、会う人すべてを自分の、そして部屋のファンにする。
「まるで広報マン。いまの部屋があるのも2匹のおかげです。猫をきっかけに相撲に関心を持ってくれた、という話を聞くとつくづくそう思います」と内海さん。蒼国来関も深く頷く。
「思えばモルには子猫の頃から、人を引き寄せる力があったのかもしれないね。でも自分たちだけの猫だったのに、いつのまにか私より有名になっちゃって悔しいよ。相撲記者にも『モルに負けるな』と書かれるから、もっとがんばります。まさかモルがこんな手強いライバルになるとはなあ(笑)」
『クロワッサン』954号より
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