国民的歌手、森昌子さんが20年近く芸能界から遠ざかっていたことを知り、「そんなに歌ってなかったの?」と、驚く人が少なくない。それほど〝歌手・森昌子〟の存在感は大きい。引退後の20年間は主婦業に全力投球、3人の息子の育児に専念した。離婚を経て再デビューしたのが2006年。
「生活していくには私が働かなければなりません。お花屋さんかおばんざい屋をやろうかとも思いましたが、1年くらい悩んだ結果、歌手に戻ろうと」
3人の息子たちからの、もう一度歌ってみれば?という言葉に背中を押されたという。
「ところが、いざ歌ってみたら全然声が出ないんです。考えてみれば20年間鼻歌ひとつ歌ったことがないので、それも当然。この音を出したいのに、喉が言うことを聞かない。どうしてもブレて音程が下がってしまう。10代20代の音域を100点とすると、30点くらいです。テレビ局に行くと、〝昔の森昌子じゃないよね〟という声が常に聞こえるような気がしていました」
焦りを覚え、ボイストレーニングに取り組んだ。先生について歌のレッスンをするのは、これが人生で初めて。声帯の筋肉を柔らかくするために、ひたすら発声練習を繰り返す日々。自分の歌に納得がいかなくても、コンサートやリサイタル、ドラマにバラエティと仕事はどんどんやってくる。そんな状態が続き、やがて更年期に突入、うつ状態に陥ってしまう。
「人に会うのが嫌、母や息子たちと話すのも嫌、家から一歩も出たくない。すべて投げ出したい気持ちでした。顔に湿疹もできました。それでも仕事は休めない。湿疹だらけの顔を見られたくなくて、テレビに出ても俯きがち。心も内向きになっていきました」
さらに、これでもかと悪いことは続く。2008年、子宮から大出血し筋腫が見つかる。レーザー手術で処置した後の検査で、今度は子宮頸がんが発見された。
「もう私、死ぬんだな、と思いました。でも、子宮を摘出すれば命は助かるとのこと。自分が女性じゃなくなるように思えていろいろ悩みましたが、お医者さまの言葉を信じて、元気になるならと手術を決心したんです」
手術は無事に成功。これ以降、気持ちが吹っ切れ、心身ともに徐々に快方へと向かっていく。