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【後編】92歳の料理家、辰巳芳子さんが伝える、いのちを育てる食べ方。

春に食べるべきものは? 辰巳芳子さんに教えていただきました。
  • 撮影・小林康浩、岩本慶三、青木和義
「私の大切な生ハム! とーってもよいものよ。 皆さん、もっと関心を持ちましょう」

「そうだった、そうだった! 春の献立ね。さあ、考えなくてはね」

う~ん、すべてが変わるとき。これから暖かくなっていく。クロワッサンでは、春の野草を食べようという企画をしたことがあったわね。いわば毒出し……と、辰巳さんは独り言。

「春の語源は、晴(ハル)。あるいは、発(ハル)という文字だそうです。万物が発生するという意味。まさに、森羅万象が衣をあらためる季節。初々しい、いのちの発露のとき」

同時に、栄養のあるものを食べなければ。楽しい気分も大事。心も浮き立つ季節でもある。

「弾むように食べたい、と思ったら、そうね、やっぱりスペイン料理かな。春になると必ず食べたいのは、筍ね。若竹汁にカツオのたたき、筍ご飯筍と蕗の炊き合わせもいいのだけれど、私はよく洋風に仕立てます」

筍を呼び寄せたければ、動物の骨を埋めろと言うくらい、筍はタンパク質が好き。だから辰巳さんは、ベシャメルソースで、筍をグラタンにする。

「牛乳に、とってもよく合うの。今日のパエリアも、茹でた筍を、タンパク質を吸わせるためにチキンブイヨンで下煮もしています。蒸し煮にしたあさりの煮汁を加えてもいいわね。一緒にいただきたいのは、そう、物語性のある献立にしたいから、サルスエラ・デ・マリスコスにしましょう」

魚介とトマトソースの入った、ブイヤベースのようなもの。サルスエラはスペイン語で、歌と踊り。お祭りみたいににぎやかな魚料理。

「添えるのは、タラの昆布締め。タラみたいなものでも上等になる」

いえ、今、タラも高級です。

「そうかもね(笑)。そして、生ハムは絶対! これは欠かせない。スペインでは、子どもたちがおやつにバゲットに生ハムをはさんだボカディージョを食べる。かの地の人々は熟成調味料を持っていませんから、生ハムの切れ端を塩の代わりに使い、味の深みにしていました。賢い食べ方ね」

筍のパエリヤ

材料(5〜6人分) 米3カップ 玉葱(みじん切り)⅓カップ 茹で筍250g サルサ・トマテ½カップ 塩小匙2 チキンブイヨン3½カップ サフラン少々 温湯¼カップ あさり(白ワイン蒸し)適量 オリーブ油適量

作り方 ❶米は炊く1時間前にとぎ、ザルにあげる。茹で筍は、先端と根の部分に分け、先端は写真のように飾るように切り、根は輪切りにしてから細切りにし、分量外のブイヨン、醤油、塩少々で下味をつけておく。サフランは温湯に浸し、色を出す。ブイヨンは熱し、オーブンは180℃に温めておく。❷パエリア鍋にオリーブ油を入れ弱火で玉葱を炒める。❸ ②に米を入れ、弱火のまま5分炒め、サルサ・トマテを加えて3分。さらに細切りの筍、熱したブイヨン、塩、サフラン湯を加え、中火にして煮る。❹水分が引きかかったら、筍の先端とあさりをのせ、オーブンで15分ほど焼く。

サルサ・トマテ(スペイン風トマトソース)

材料(作りやすい分量) トマト8 0 0g〜1㎏(水煮缶でも) 玉葱150g にんにく1かけ オリーブ油¼カップ ローリエ1枚 塩小匙1½ 砂糖少々

作り方 ❶玉葱とにんにくはみじん切り。❷トマトは湯むきして横二つ割りにし、種を受け鉢にのせた漉し器の上にかき出す。実はざく切り。種の部分は漉して汁を使う。❸鍋にオリーブ油、ローリエを入れ、①を蒸らし炒めする。❹ ②のトマトと汁を加え、塩、砂糖を入れ、鍋蓋をずらし、20分ほど煮る。

サルスエラ・デ・マリスコス

材料(作りやすい分量)タラ300g(1切れ40gほどに切る) イカ2杯 赤海老8〜9尾 ピーマン2個 赤パプリカ2個 にんにく1かけ ブラックオリーブ適量 サルサ・ポモドーロ・フレスカ400〜500㎖ パプリカパウダー大匙1 塩、胡椒、小麦粉、オリーブ油各適量 

作り方 ❶魚介類を焼く。タラは塩・胡椒して小麦粉をつけ、オリーブ油でムニエルにする。イカは下処理して皮をむき、身を3㎝幅の輪切りにして軽く焼き、塩・胡椒しておく。海老は表面を焼き、塩をふる。❷ピーマン、赤パプリカは1㎝の細切りにし、塩茹でする。❸鍋にみじん切りにしたにんにくとオリーブ油を入れ、弱火で香りを出す。サルサ・ポモドーロ・フレスカとパプリカパウダーを加え、温める。焼いた魚介類とピーマン、赤パプリカ、ブラックオリーブを加え、7〜8分煮る。味をみて塩で調える。

サルサ・ポモドーロ・フレスカ(南欧風トマトソース)

材料(作りやすい分量)完熟トマト(水煮缶でも)1㎏ 玉葱150g にんにく1かけ 生バジルの葉3〜4枚 バター大匙2 オリーブ油大匙2 塩小匙1 砂糖適量

作り方 ❶玉葱とにんにくはみじん切り。❷トマトは湯むきして横二つ割りにし、種を受け鉢にのせた漉し器の上にかき出す。実はざく切り。種の部分は漉して汁は使う。❸鍋にバターとオリーブ油を入れ、①を加え、蒸らし炒めする。❹玉葱が黄金色になったら②のトマトと汁、バジルを加え、煮立ったら、塩、砂糖(トマトの甘みによって調整)で調味する。アクを取りながら、20〜30分煮る。

『クロワッサン』946号より

●辰巳芳子さん 料理家、随筆家/大学では実験心理学を専攻。料理家の母・辰巳浜子の薫陶を受け、45歳より料理家として立つ。フランス料理、イタリア料理、スペイン料理の研鑽を積み、「蒸らし炒め」はじめ独自の手法を確立。父親の介護体験から、いのちを支えるスープに着目。全国に弟子は900人を超える。

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