「カーゼ・コリーニというイタリアのピエモンテ州にあるワイナリー。ロレンツォ・コリーノという農業博士がつくっていて、彼の理論と信念のもと、ぶどう畑は完全不耕起(土を掘り起こしたり耕したりしない)、肥料もやらない、農薬もやらない、除草もしないで、夏に実ったぶどうがそのまま完熟するのを待って仕込む完成度の高いワイン。酸化防止剤もまったく使わない。生産量が少なくて、世界中の人が探して回っている。でも、僕は日本のインポーターが友だちで手に入れることができたんです」(明登さん)
アルコールっぽさがなく、するりとのどを通っていく。それでいて、味は濃い。旨味が凝縮されている感覚で、これはぐいぐい飲めてしまう。完熟のもたらすおいしさなのだろう。赤木家の友だちの輪、おそるべし!
明登さん曰く、このワインと『月とピエロ』のパンは似ている。
「どちらも発酵しきった感じが持ち味だと思うんです。ワインも天然酵母のパンも、酵母が糖分を食べて、それをアルコールと炭酸ガスに変えますよね。酒はそのアルコール分を利用しているし、パンの場合はふくらませるのに炭酸ガスを使っている。このパンを焼くと蒸発してしまうアルコール分も、パンの中で旨味を抽出する役割を担っているわけです。カーゼ・コリーニのワインも長屋くんのパンも、〝ふりきるぐらい発酵させている〟のがポイントだと思う。ふりきるぐらい酵母が発酵して、糖分をアルコールと炭酸ガスに変えながら、同時に素材の中にある旨味成分を上手に抽出することによって、パンの小麦、ワインのぶどうの中のこのうえない旨味が僕らの舌に感じるように届けられている」(明登さん)
さらに、それは漆の仕事にもつながっているという。
「漆という素材は自然のものなので、かならずしも人にとって心地いいものだけではないのです。それをうまいこと抽出して、おいしかったり気持ちよかったり、見た目がきれいだったりするものに変えるという仕事なので。こうした自然の素材を相手にする仕事は、みんなどこか共通しているんでしょう」(明登さん)
すべて、きちんと素材と向き合うかどうか、が鍵。
「素材がそもそも持っている力をそのまま移したい。たとえばパンなら、小麦粉の可能性をそのままきちんとパンに移し変えられればおいしいパンになるんです。長屋くんのパンは、そういうふうにできているんじゃないかな」(明登さん)