【前編】お金を使わず豊かな生活。ヒントは谷の暮らしにあり。
- 撮影・三東サイ
島根県の飯南町(いいなんちょう)では出雲大社神楽殿の大しめ縄が作られる。日本一の大しめ縄は長さ13.5m、重さ4.5トン。しめ縄のために飯南町で育てられた赤穂餅の稲を使い、およそ3カ月がかりで延べ800人ほどの力で完成される。
飯南町は出雲大社から車で約1時間20分のところにあり、天然のプラネタリウムのような美しい星空と森林セラピーで知られる自然豊かな町だ。その飯南町の山あいに谷地区がある。島根県と広島県の県境に近く、90世帯ほどが暮らす。近くにコンビニエンスストアも飲食店もない(最寄りの店も車で10分以上かかる)谷地区を訪ねたとき正直なところ何もない田舎だと思った。お金を使うような場所が見当たらない。
ホテルや旅館もないから、谷八幡宮の宮司さんの家や谷自治振興会の元会長さんの家に泊めてもらい、谷の暮らしを眺めたり谷の人の話を聞いた。
「東京は一歩出ればお金でしょう?」
言われてみれば確かにそうだ。必要なものやサービスをお金で買うのは何も東京だけじゃない。いまや日本中どこでもそうなのでは……。
「谷は違います。ことさらお金をかけるのではなくて、必要なものは何でも自分たちで工夫して作ります」(谷自治振興会・澤田定成さん)
ひとりの手に負えない作業は、何人かで力を合わせてやれば早く終わる。氏神の谷八幡宮に鳥居を建てるときも、業者に頼まず山から木を伐ってきて加工し、自分たちの力で建てた。
65歳以上の高齢化率43%、50歳以上の住人が大半を占める谷地区(平成26年4月調べ)では、知恵を出し合い声を掛け合って大抵のものを自ら作る。秋の祭りの娯楽もそう。
「みんな楽しみにしている神楽は、仕事の後で有志が週2回ほど集まって練習します。島根は神楽が盛んですよ」
『クロワッサン』942号より
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