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【前編】不満があっても喧嘩をしても、やっぱり一人じゃ生きられない。

穏やかにみえる熟年夫婦も、ここに至るまでにはいろいろありました。試練を乗り越え仲良く歩む2人の、夫婦円満の秘訣とは?
  • 撮影・清水朝子 

周りを海と山に囲まれた小さな町、愛知・蒲がまごおり郡。のどかな空気が流れるこの場所で、自分たちの大好きなおしゃれを発信し続ける夫婦がいる。セレクトショップ『サスコン』のオーナー、鵜飼芳夫さんと弘子さんだ。2人の日課は、町の南側、三河湾に架かる橋を渡り、島全体が国の天然記念物に指定されている竹島まで歩くこと。島の中央にある八やおとみ百富神社の103段の階段を早足で上る弘子さんの姿は74歳とは思えないほど若々しい。「秘密の場所があるの」と、三河湾の風光明媚な風景を一望する海岸へ案内してくれた。

「毎朝、家からここまで2人で歩いてきて、朝日を眺めていたんだけど、少し前に夫が足を悪くしてね。今はほとんど私一人で通っているのよ」

寂しそうな横顔の弘子さん。

「久しぶりに島に来ると気持ちがいいな。何十年通っていても飽きないね」と、この町で生まれた芳夫さんにとっても思い入れの深い場所だ。散歩を終えると、島の対岸にある「蒲郡クラシックホテル」へ。月に数回、ここへ来て朝食を食べる。

「フレンチトーストが絶品でね。海を見渡す窓際の席が特等席だよ」

おいしそうに頬張る芳夫さんの横で、弘子さんがいたずらっぽく言う。

「地元だからなかなか泊まる機会はないんだけど、一度だけ、結婚当初に一人でここに泊まったことがあるのよ。夫と大喧嘩をして家を飛び出して、海側の部屋に1泊した。その風景に、少しだけ救われたのを覚えてるわ」

「蒲郡クラシックホテル」の朝食は宿泊客以外も利用できる。2人の定番はフレンチトースト(750円)。

芳夫さんは弘子さんに一目惚れ。 今も昔もおしゃれが共通の趣味。

仲の良さそうな夫婦も、道のりは決して平坦ではなかったのかもしれない。2人の出会い、1960年代初頭にまで遡って聞いてみた。

「友人の紹介で初めて弘子に会った瞬間、なんて可愛い人だろうと思った。中学生の頃からフランス映画が好きで、ファニーフェイスっていうのかな、ブリジット・バルドーとかソフィア・ローレンみたいな正統派の美人ではないけれど魅力的な顔立ちに憧れがあったんだね。少し日本人離れしたような弘子の顔が、僕の理想にぴったりだった」

「もう、また」とはにかみながら、弘子さんが応じる。

「私のほうは実はメガネをかけている人ってあんまり好きじゃなかった(笑)。けれど、初めて会った彼は、細身の綿のパンツに黄色いリブ編みのソックス、デザートブーツを履いて脚を組んでいたの。それを見て、わぁ、かっこいいって。スーツのサラリーマンばかり見ていたから、カジュアルな服装がよけいに素敵に見えたのね。穏やかそうな雰囲気にも惹かれたかな」

当時、名古屋で暮らしていた2人のデートはもっぱら街歩き。流行の映画があれば必ず一緒に観に行って、スクリーンのなかのファッションを夢中で真似した。約2年の交際を経て、1964年、芳夫さん23歳、弘子さん22歳のときに結婚。伊豆への新婚旅行に弘子さんが被っていったフランス製の帽子は、今も大切にとってある。

「オードリー・ヘプバーンに憧れて、真似していたのね。帽子に合わせた黄色いコートは、布を買って洋裁店で縫ってもらったもの。伊豆への観光バスは新婚さんばかりで、当時、女性は帽子、男性は背広にネクタイが新婚旅行の定番スタイルだったから、同じような格好のカップルばかりだったね」

『クロワッサン』938号より

●鵜飼芳夫さん 鵜飼弘子さん/セレクトショップ『サスコン』を営む。1階は国内ブランドを主に扱うSUS(サス)、2階はインポートもののCONTRAST(コントラスト)。愛知県蒲郡市元町4・8☎︎0533・68・5019 営業時間10時~19時 火曜休

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