20代の頃からひとり暮らしを始めたという岸本葉子さん。大通りから少し奥まった静かな場所に佇む建物の1階。仕事場を兼ねるこの瀟洒なマンションに移り住んでから、かれこれ18年が過ぎた。年月が経つと「もの」に溢れた生活になりがちだが、岸本さんの部屋は違った。玄関に一歩足を踏み入れた瞬間から、どこもかしこもすっきりと片づいている空気が漂ってくる。といってホテルの部屋のような無機質な空間とは異なり、〝心地よく暮らしています〟という、ささやかな主張が随所に感じられるのだ。
リビングの、上に何も置かない大きなテーブル、寝心地のよさに徹した寝室、青の壁が色鮮やかなトイレ、色分けで整理されているクローゼット、オブジェのように収納された洗濯ばさみ、不揃いながらひとりの食卓を和ませる器、などなど……。
岸本さんは、『テーブルに何もない日 気持ちいい暮らしのスタイルブック』の冒頭でこう述べている。
ーー求道者でない私には、迷いや不徹底なところがまだまだある。それを今は許しています。削ぎ落としていくばかりでは、さびしい。減らすことを心がけつつ、なごめるものも生活空間の中にほしい。『もの』は、ライフスタイルそのものです。何を持ち、どう付き合うか。すっきりと暮らしたい。ほっとする部分もとっておきたい。この二つの折り合うスタイルを探してきましたーー
折り合う方法とは、日常的に使うこと。仕舞い込んでおいては、それは存在しないのと同じ、と岸本さん。そして使うためには、ものの居場所をちゃんと決めておき、出した時に使える状態になっていることが大事だ、とも。
「死蔵はせずに、目にして楽しむこと。ただし、2年以上目にしなかったら、これは不要なものだと判断する。家の中に無駄なものが増えると空気が澱みます。〝捨てろ!捨てろ!〟と負のオーラを発してくるので(笑)。見た目のすっきりさは、気持ちのすっきりさに繋がるのです」
現在、岸本さんは、おひとり様の老後を見据えて室内のリフォームを計画中だ。「これから」の日々をよりシンプルに心地よく過ごすため、さらなる磨きをかけようとしている。