引田さんの住まいづくりで印象的なのは、「家はパーツが大事」という考え方と、前述の階段しかり、不要なものは引き算する思い切り。
たとえば、閉めると壁面に大きな面積を占めるカーテンは、「部屋の印象を左右するので、とても重要」と吟味して選ぶ。一方で、新居のシステムキッチンにオーブンと食洗機はつけなかった。
「昔はお菓子づくりをしたけれど、いまは食べたいときにおいしいものを買ってきます」。
食器は、作家ものの陶器やガラス、漆器が多いため、食洗機はあってもあまり使わない。それらを引き算した分、スペースに余裕が生まれ、きれいに物が収められる。家づくりでは、つい、あれもこれもあれば安心と足す方向で考えがち。けれども、不要なものに場所や手間を「取られない」ことも、快く暮らす上では大切だ。住まいの完成形を急がずに、「必要になったら足せばいい」そんな気持ちで、変化を受け入れられる「余白」をつくる。それが、住まいを快適にする秘訣かもしれない。2階は現状、用途を決めない余白の空間になっている。間に2階があることで、3階の娘世帯とは音による干渉がほとんどなく、互いにプライバシーが守られている。もちろん、今年生まれた孫の然くんをしばしば預かり、娘の子育てをバックアップすることもあれば、たまに二世帯5人で食卓を囲み団らんすることも。適度な距離で、二世帯住宅の醍醐味を味わっている。
舞さんの夫の善雄さんは、「義父から、『もう自分たちは先が見えているはずだったのに、君たちが来たおかげでいい意味で人生がわからなくなった』と言われ、うれしかったです」と語る。
「まだまだ、住まいも暮らしも変化していきそう」とかおりさん。この先も予想できない変化を楽しんでいくつもりーーその笑顔は溌溂と輝いていた。