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ママ友の趣味活動がいつの間にか
人気のワークショップに。その理由は?

人生半ばでそれまでとはまったく畑違いの仕事を選び、今をイキイキ生きる女性たち。今回は、出会う前まで「正反対」の道を歩んできたという菊地珠和さんと市川孝子さん、2人のママ友が石けんブランドを立ち上げるまでのストーリーを紹介します。

菊地さん(左)の祖父が遺してくれた趣のある茶室で、市川さん(右)と共に石けん作り。
菊地さん(左)の祖父が遺してくれた趣のある茶室で、市川さん(右)と共に石けん作り。
 
長年の夢というわけではない、たまたま巡り合ったモノに導かれるように仕事ややりがいを育ててきた人がいる。手作り石けんの工房『punanatural made(プナ・ナチュラル・メイド)』を主宰する菊地珠和さんと市川孝子さんだ。

子どもたちが通う幼稚園のママ友として出会った2人が、『puna』を立ち上げたのは2013年秋。きっかけは子どもの外遊びなどに欠かせない虫除けスプレーを一緒に作ったことだった。

「アロマ関係の仕事をしているママ友に教わって、自然素材の安全なモノを手作りしましょう、と」と市川さん。

子どもの送り迎えの際におしゃべりを交わす程度だった関係が、モノ作りの過程を通じて少しずつ近づいた。

「次はなにを作る? 子どもが過敏肌で市販品が合わないから安全な石けんでも作る?となって、実際に始めたのが私たち2人でした」

約1時間かけて撹拌した材料を型に流し、冷暗所で1カ月熟成させる。
約1時間かけて撹拌した材料を型に流し、冷暗所で1カ月熟成させる。


今思えば「運命」としか言いようのない出会いだったけれど、そこに至るまでは対照的な道を歩いてきた。

高校でデザインを学んだ菊地さんは、機械部品の設計の仕事に就いたものの、好きだった釣りや海外生活の夢をかなえたくてオーストラリアに留学。

「好きなフライフィッシングばかりして過ごしていました(笑)」
 
帰国後、28歳で結婚し、やはりアウトドア好きな夫と「釣りを楽しむために」北海道で新婚生活をスタート。学生時代からの、もう一つのライフワークである仏画を描きながらナチュラルライフを楽しみ、やがて生まれた子どもと共に3年間を過ごした。
 
その後、さまざまな事情から夫婦の郷里である神奈川県の湯河原に転居。

「祖父母が住んでいた家に私たち一家が住むことになって。今、石けん作りの拠点にしているアトリエも、誰も使わなくなった庭の離れ(茶室)でした」
 
子育てと夫が営む造園業の手伝いに追われながらも、近くの里山を散策したり、休日は芦ノ湖や相模湾で釣りを楽しむライフスタイルはずっと続けた。

「だから、都会的でキラキラした雰囲気のこの人(市川さん)に初めて会った時、自分とは合わないだろうなーって」と笑う菊地さんに、「うん。最初は私の片思いだったね」と市川さん。
 

市川さんは菊地さんが想像していたとおりの都会っ子。東京の港区白金で生まれ育ち、大学卒業後は広告代理店に就職。「仕事を終えてから深夜まで遊び、タクシーで帰る」毎日だったそう。
 

20代の市川さん。都会のキラキラ生活を満喫していた頃。
20代の市川さん。都会のキラキラ生活を満喫していた頃。
夫の造園業を手伝っていた菊地さん。何事も納得いくまで、が信条。
夫の造園業を手伝っていた菊地さん。何事も納得いくまで、が信条。


暮らしが一変したのは32歳で結婚し、夫の郷里である湯河原に来た時。

「ものすごいカルチャーショック。高級スーパーもおいしいスイーツ屋さんもないじゃん!みたいな(笑)」

菊地さんに「片思いした」のは、自分にない世界を感じ、心惹かれたから。

「山歩きに誘ってもらい、山道の歩き方や野草の名などいろいろなことを教わりました。生まれて初めて山菜の灰汁抜きにも挑戦し、あー、自然の色ってこんなきれいなんだ、こんなにおいしいんだって」

菊地さんもまた、自分にない市川さんの開放的な人柄に魅了されていった。

「自然とばかり付き合ってきたから、『人間世界』がちょっと苦手。そういうことは彼女の力を借りようと(笑)」

ママ友の趣味活動が対価を
得る仕事に。さらに進化中!

知識も経験も師匠もないまま手探りで始めた石けん作り。資料を読み漁り、ネットで情報を集め、試行錯誤を繰り返した。2人が最終的に選んだ作り方は、食用植物油、精油など、人にも環境にも安心・安全な材料で機械を使わず人の手だけで撹拌し、1カ月熟成させる、もっとも「古典」的な方法。

「釜炊きをしない『コールドプロセス』は酸化しにくいし、人の手で撹拌することで仕上がりの美しさも格別。手も時間もかかりますが、いちばん質の高いものができます」(菊地さん)

「当初はこれを仕事にする気はまったくなし。作ることが楽しく、できたものは安全で、実際、子どもの肌トラブルはなくなり、家族みんなが喜んでくれた。それで充分でした」(市川さん)
 
設備費、材料費など月数万円の経費は2人で同額ずつ負担。ママ友同士の「趣味」が、対価を得る「仕事」に変わったのは、石けん作りを学びたい人たちからワークショップの依頼が舞い込むようになってから。現在はそれぞれ月数万円ずつを収入として得ている。

ワークショップの風景。子育て中のママグループ、産婦人科医院のプレママ向け講座、保健師などさまざまなところから声がかかる。
ワークショップの風景。子育て中のママグループ、産婦人科医院のプレママ向け講座、保健師などさまざまなところから声がかかる。
「自分たちの予想を超えた広がりにつながったのは、作る人、使う人すべてに喜ばれるモノ作りだったことが大きいと思います」(市川さん)

一見、正反対に見えた2人が石けん作りを通じて「お金に換算できない価値」を共有し、お互いの持ち味を尊敬し合えたことも、うまくいった理由と口を揃える。

石けん作りを通して、たとえ微力でも地球の水をきれいにすることが夢。

「子どもの頃から親しんだこの海や川から」。

菊地さんの言葉に、市川さんが、うんうん、と大きくうなずいた。

puna natural made●アロマオイルを調合し、虹色を表現した「虹」(手前)など定番の石けんは8種。
puna natural made●アロマオイルを調合し、虹色を表現した「虹」(手前)など定番の石けんは8種。


菊地珠和さん、市川孝子さんのサクセスポイント

・作る、使う、すべてが楽しい。(ふたりとも)

・お金に換えられない価値観を共有、互いの持ち味を尊敬し合えた。

・無料で、自由に使える場(アトリエ)があった。(市川さん)

 

『クロワッサン』922号(2016年4月10日号)より

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