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引っ越しを重ねて気づいた、
台所を最大限活用する方法

150件以上の東京居住者の台所を取材してきたライターの大平一枝さんに、ご自身の台所を見せていただきました。さすが、キッチンのエキスパートならではの工夫が詰まっています。

友だちや家族が楽しく集えるリビング&キッチン。

友だちや家族が楽しく集えるリビング&キッチン。

「間取り図をつまみに酒が飲める」というほど物件好きで、9年間で引っ越しはなんと4回。今年9年ぶりに、15年前に建てた東京・下北沢のコーポラティブハウスに戻ってきた。もとより、インテリア雑誌に出ているようなおしゃれキッチンより、住人の人柄が滲みでる台所に興味がわくという大平さん。自身の台所もまるで気取りがない。

けれど目的は明快。家族はもちろん、ご近所さんや子どもの友だち、大勢が心地よく集えることに気を配った台所なのです。

この家を設計したとき、少しでもリビングを広くとるために台所は2畳程度とやや狭めで妥協した。リビングには大きな座卓。テーブルにしなかったのは、大人数でも囲めるようにしたかったのと、空間を広く見せたかったから。キッチンカウンターは、1メートル強とやや高め。

「この高さなら料理をする手元もしっかり隠せるし、床に座る人とも自然に顔を合わせて話せるんです」

カウンターの上には巨大なレンジフード。普通、換気扇は壁寄りにあるが、夫がヘビースモーカーということもあり、吸うたび台所の隅まで移動しなくてすむようにしました。

「たばこを吸う人と吸わない人で会話が分かれちゃうのって寂しいでしょ? 換気扇がここにあれば、この下にみんなが集まれるなと思って」

冷蔵庫には幼少期の息子からの手紙が大切に。「ママヘ。家事をしてくれてありがとう」

冷蔵庫には幼少期の息子からの手紙が大切に。「ママヘ。家事をしてくれてありがとう」


今年、この家に戻るとき、台所は大きく直さなかった。ガスコンロを最新式にしたことと天井側の棚に扉をつけたことくらいだそう。以前の家に住んでいたときに特注した、お気に入りのキッチン棚を設置したことにより、一段と愛着もわきました。

「リフォームって全部一新するというイメージでいたけれど、すでに持っている家具をちゃんと活かして直すこともできるんですよね」

早朝のお弁当から夜食作りまで稼働する台所には、大平家の歴史もそこかしこに刻まれています。

 

様々なタイプの台所を使ってみて、多くを学びました。

15年前にコーポラティブハウスを建てたころ、長男は5歳で長女は1歳。目の離せない年ごろの子どもを抱えての仕事で、とにかく時間がなかった。だから憧れの高価な食洗機を、えい、と設計に組み込みました。

「でも、子どもが小学校にあがったら朝の時間ができて、意外に自分で手洗いできるじゃん?と思ったんですよね。家事って変わるんだなあと実感したのは、それが最初」

当時、マンションタイプのコーポラティブハウスに幼い子どもがいたのは大平家だけ。走り回る足音や泣き声が気になり、部屋を貸しに出して近所の一軒家を借りたそう。

それから4回の引っ越しで経験した台所も、バラエティ豊か。今年の初めまでは1年間、住み慣れた下北沢を離れて調布に住んだ。広々としたペントハウスは素敵でしたが、
「会社の給湯室みたいに、シンク周りだけが異様に狭くて。それはそれで、小回りが利いたけれど……」。

子どもの友だちも多くが下北沢在住で、家族全員が頻繁に下北沢に通っていることが判明。それなら、もう一度あの持ち家に、と考えたのだそう。

現在の台所。どこも手をのばせばすぐ届く広さ。

現在の台所。どこも手をのばせばすぐ届く広さ。


現在、大学生と高校生になった子どものお弁当を作っていますが、それもしばらくすれば終わり。まだまだ、家族も家事も変化する。だからこそ
「完ぺきな台所を探し求めるより、今ある台所を工夫して使うほうが、結局は居心地がいいとわかった」、と大平さん。引っ越し魔の名は返上して、現在の家を終の住み処にする予定です。

 

多機能コンロで、時間も節約

ご飯もパンも焼けて、家電の数も減らせる。

ご飯も炊けてパンも焼ける、優秀コンロ。

下北沢の家に戻るとき、ガスコ
ンロを多機能なものに一新。
米は文化鍋で炊くのだが、スイッ
チひとつで自動で炊き上がる優れ
もの。台所を離れて原稿を書いて
いても、鍋を焦がす心配がなくな
ったそう。パンも焼けるので、家
電を減らせて、省スペースに。


 

収納は隠す気楽さも必要。

扉があれば、収納も楽チン。

扉があれば、収納も楽チン。

 15年前に設計したころは予算も
なく、オープンにしていた天井側
の棚。けれど、油はねも気になる
し、モノが表に見えているとごち
ゃごちゃするので、リフォーム時
に扉をつけました。普段使わない
大皿などを収納。隠せるのでなん
でもしまえて、とても便利。


 

食器は本当に使うものを厳選。

150平米から約半分の広さの家に引っ越ししたので、食器はダンボール8箱分くらい処分。友だちにも好きなものを自由に持っていってもらいました。厳選の末、残った食器はファイヤーキングなど、壊れにくく、日常的に気を使わず扱える丈夫なもの。また、何年かに一度通う、長野の漆器市で手に入れたお気に入りのもの。片口が好きで、最近は、リサイクルショップで掘り出し物の食器を見つけるのが得意とか。
普段使いの器は壊れにくく気兼ねなく使える丈夫なものばかり。

普段使いの器は壊れにくく気兼ねなく使える丈夫なものばかり。


 

仕分けは客観的な目を加えて。

自己流だけに偏らず、友達の片付け方法も積極的に取り入れる。

自己流だけに偏らず、友達の片付け方法も積極的に取り入れる。

食器を自分でしまうとどうしても自分流の分類になってしまう。大平さんは斬新な視点がほしくて、あえて引っ越しの手伝いに来てくれた友だちに食器棚の片づけを任せた。「一目で見てわかりやすいように」と他人の手でなされた片づけは大正解。器の大きさ順に重ねるのではなく、小皿、椀など種類別にカゴに入れ、ラベルを貼って分類されていました。「友だちがグラフィックデザイナーだったこともあって視覚的にわかりやすくしてくれて。今もその配置のまま使っています


 

食品は台所にという
思い込みを捨てる。

大平さんが取材で知り、なるほど!と取り入れたアイディアが、玄関にストック品を置くこと。米や酒、缶詰など毎日使わない食材や、調味料やラップの買い置きを玄関の収納スペースに保管している。玄関なら涼しくて湿気も少ないし、食品関連のものすべてを台所に置く必要はないのだと改めて気づいたそう。
「昔は土間に台所があったわけだし、理にかなっていますよね」
 台所もモノで溢れず、すっきり。

涼しくて湿気も少ない玄関は食品管理を置いておくのに最適。

涼しくて湿気も少ない玄関は食材を置くのに最適。

愛着のある特別な棚を
大事に使いつづける。

9年前、造形作家の丸林佐和子さんにオーダーメイドで作ってもらった棚。文化鍋など、置きたいキッチンウェアを伝え、そのサイズに合わせてデザイン。丸林さんは、火からおろした鍋もそのまま置けるようにと最下段にタイルを貼り、小さなものが入れられる引き出しを加えるなど工夫を凝らしてくれました。引き出しにはハーブやキッチン鋏などが入れられて便利。この思い入れのある棚を主役に台所をリフォームできたことが、大平さんはなによりうれしかったそう。

自分仕様にサイジングされたオーダー仕様の棚。

自分仕様にサイジングされたオーダー仕様の棚。


◎大平一枝さん ライター●長野県生まれ。主な著書に『東京の台所』(平凡社)、『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)など
『クロワッサン』915号(2015年12月25日号)より

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