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江戸料理風にみりんを使い、
ちょっと粋な暑気払い。

近年の夏の暑さには耐え難いものがあります。ついつい冷房に頼り、冷たいものに手が伸びる。

現代ほどではなかったにしろ、江戸時代も暑かったはず。冷蔵庫もなかった時代、江戸庶民はどんな食生活の工夫をして夏を乗り切ったのでしょう?

「江戸の食文化が花開いたのは、中期以降。それまでは、塩と味噌、酢が主な調味料でした。上かみがた方からの下り醤油は高価なので、江戸庶民には手が出なかった。ところが、野田や銚子(共に千葉県)で、大麦の代わりに小麦を使った香り高い濃口醤油が造られるようになり、江戸に運ばれます。これが江戸の鰹だしともよく合い、一気に料理の幅が広がりました。砂糖はとても高価でしたから、高級料亭だけでまだ庶民は使えません。現在は甘味調味料として使われる〝みりん〟は、この当時は高級酒として、主に女性や下げこ戸の男性に飲まれていたようです」

と車浮代さん。事実、1712年に発刊された百科事典『和わかんさんさいずえ漢三才図会』にも「味醂酎(酒)」の記載があります。

浮世絵と江戸料理に造詣が深い、車浮代さん。

浮世絵と江戸料理に造詣が深い、車浮代さん。


「嫁がみりんを飲んで度胸が据わる様を『味醂酒が効いたで嫁は琴を出し』と詠み、下戸の男性がみりんで酔った情けない様子を『味醂酒で真っ赤誠の面汚し』と詠っています」

確かに、蒸したもち米に米麹を混ぜ、焼酎または醸造用アルコールを加え、60日間ほど常温で熟成させたものを圧搾、濾ろか過して造る本みりんは、アルコール度数14%前後で、清酒やワインとほぼ同じくらい。試しに本みりんを飲んでみると……。

「ストレートだと、かなり甘さが強いですね。でも、甘味が舌に残らず、さっぱりしています。紹興酒に近い味わい、といった感じでしょうか。みりんは中国に存在した『蜜ミイリン淋』という甘い酒が、戦国時代(16世紀)に伝来したというのが有力説です。案外、紹興酒とルーツは同じなのかも」

本みりんの主な成分は、麹菌の酵素の働きでデンプンやタンパク質を分解してできた生成分とアルコール。グルコース、オリゴ糖などの糖分、グルタミン酸、ロイシンといったアミノ酸、乳酸、クエン酸が含まれる発酵食品なので、整腸作用も期待できそう。この本みりんを、夏にぴったりの飲み物としてアレンジしてみたのが、今回のドリンク2品。

「〝みりんジンジャー〟は、おろし生姜の香りがたって爽やかな一杯です。谷中生姜をマドラー代わりにして、あとでおつまみにするのも一興ですよ。〝みりんモヒート〟はミント代わりの大葉が和風の趣をかもし出し、すだちが絶妙なアクセント。どちらもみりんとは思えない味わいでビックリ。本みりん特有の甘味が炭酸とマッチして、すごく飲みやすい。でも、アルコール度数がそこそこあるので、飲み過ぎには注意してくださいね(笑)」

 
大葉の香りとすだちが絶妙なみりんモヒート(右)。谷中生姜がマドラー兼”おつまみ”のみりんジンジャー(左)。

大葉の香りとすだちが絶妙なみりんモヒート(右)。谷中生姜がマドラー兼”おつまみ”のみりんジンジャー(左)。

みりんモヒート

材料 本みりん45㎖、炭酸水120㎖、すだち½個、大葉5枚
作り方 
1.グラスにせん切りにした大葉、薄切りにしたすだちを入れ、軽くつぶし、香りを立てる。
2. 1に本みりんを加え、上から炭酸水を注ぐ。
3.マドラーなどで、攪拌する。

みりんジンジャー

材料 本みりん45㎖、炭酸水120㎖、おろし生姜大匙1、谷中生姜1本
作り方 
1.グラスにおろし生姜、本みりんを入れ、炭酸水を注ぐ。
2.先を削った谷中生姜で軽くまぜる。


 

◎車浮代さん 時代小説家、江戸料理研究家/江戸文化の中でも、浮世絵と江戸料理に造詣が深い。最新刊は『江戸の食卓に学ぶ江戸庶民の〝美味しすぎる〞知恵』(ワニブックス) 

『クロワッサン』904号(2015年7月10日号)より

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