また、記憶の中に近年亡くなった親族のことが強く残っていた。祖父が存命中に委任状を準備していて家族が助かったこと、義母の時は故人の遺志が測れず遺品整理で困ったこと。誰に何を託したいか、自分の大切なものは何か。家族にはきちんと伝えておかないとお互いに不幸だと身にしみていた。終活ライフケアプランナーの勉強の中で、既存のエンディングノートに目を通したが、死を中心としたことを書くのはハードルが高いと感じた。
「そもそもノートだと、間違えて書いてしまったらそれまでです」
元来、大のつくほどのファイル好きの財前さん。それならばとオリジナルの、差し替え自由・編集自由でファイル形式の書き込み式ノートを作ることにした。
この「ありがとうファイル」には画期的な部分が多い。まず、書籍自体に書き込むのではなく、説明に従ってPDF式シートをダウンロード、プリントアウトして書き込む仕組みであること。そしてシートの内容が多岐にわたり、家族の状況や構成で選べること。家族の今後25年のライフプラン、親へのインタビュー、お母さんの味レシピ、宝物コレクション……。
中でも後々役立ちそうなのが、「親へのインタビュー」。50あまりの質問項目があり、〈子どもの頃の夢は?〉〈お父さんはどんな人だった?〉〈お母さんは?〉〈結婚の時に言われたことは?〉と続く。楽しい記憶を語ることは誰しもうれしいもの。続けて、〈介護されることになったら?〉〈病名、余命の告知はどうしてほしい?〉〈延命治療はどうしたい?〉。一般的なエンディングノートはここのみを書くものが多いが、楽しい作業とは言い難い。しかし楽しい思い出を振り返りながらのインタビューであれば、幸せな気持ちのまま、そしてこれが人生において自然なことだと素直に受け入れながら考えられるのだ。財前さんは言う。
「これを書くことで、『今を生きる』ことがすごく大事だと思えるようになるんです。書いた時に60歳だとしても、あと40年をどう生きるか、前向きな気持ちになる。よりよく生きようと思えて、人生の風通しがよくなるんですよ」