くらし

世界のおいしい本たちを 勝手に吟味しまくった!印刷博物館 P&Pギャラリー『世界のブックデザイン2017-18』│金井真紀「きょろきょろMUSEUM」

わたしは原稿を書くのが遅い。そのうえ推敲が大好きで、1行書くごとに文章をペロペロと舐め回して、なかなか先に進まない。一冊の本を書くまでの道は果てしない。とほ。

ゴールが見えない本の仕事をする時はいつも「デザイナーさんと打ち合わせをするために頑張ろう」と自分を鼓舞している。原稿やイラストがある程度揃ってブックデザインの打ち合わせをする日の感慨は格別だ。丹精込めて作った野菜を、料理人に届ける農家の心境ってこんな感じだろうか。達成感と晴れがましさと不安、そしてほんの少しの寂しさ。

さて今回はブックデザインの展覧会に出かけた。日本、ドイツ、中国など7カ国の一流料理人による「おいしい本」がずらり。手にとって重みを感じ、紙質を触り、ページをめくって「味見」できるのも楽しい。わたしはうれしくなって、勝手に「金井賞」を決めることにした。担当編集・森部さんには「森部賞」を、案内してくれた広報担当の古田さんには「古田賞」を決めてもらう。うふふ、いきなり選考委員ごっこ!

森部さんは日本の折りたたみ式絵本を選んだ。古田さんが推薦してくれたのはドイツの黒い本。ノーベル賞作家ハインリヒ・ベルが第二次大戦中に綴った日記の全ページを印刷した一冊だ。ナチスに反対し、戦地で捕虜になった経歴を持つらしい。

1945年5月2日のところに、「Hitler tod」と強い筆圧で書いてある。「ヒトラー 死」。生々しいものを静かに伝えるデザインに、選考委員(ニセ)3人は唸った。

『世界のブックデザイン2017-18』  
印刷博物館 P&Pギャラリー(東京都文京区水道1-3-3 トッパン小石川ビル)にて3月31日まで開催。昨年3月開催の「世界で最も美しい本コンクール」の入選図書と世界7カ国のコンクール入賞図書、約200点を展示。電話番号03-5840-2300 10時~18時 月曜休館 無料

金井真紀(かない・まき)●作家、イラストレーター。最新刊『サッカーことばランド』(ころから)が発売中。

『クロワッサン』993号より

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE

※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

人気記事ランキング

  • 最新
  • 週間
  • 月間