くらし

【紫原明子のお悩み相談】寂しいです。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は、子どももおらず、友達も少ない妻からの相談です。

<お悩み>
結婚を機に、5年ほど前から会社勤めをやめて自宅で仕事をするようになりました。子供もいません。夫は会社員で帰りも遅いです。

会社勤めの時は忙しさに追われ、友人と遊ぶこともままならなくなり自然と疎遠になってしまいました。もともと人付き合いもそんなに上手い方ではなかったので、今でもたまに会う友人は二人程度です。

自宅で仕事をするようになってからはますます人と話す機会が乏しくなったので、自分との対話ばかりになり(脳内で)気がつかないうちに独特の思考回路になってしまって、人に会っても不快感を与えてしまうのではないかといった恐怖心すらあります 笑。

貴重な友人二人には子供がいるのですが、久しぶりに会って話していても、やはりお母さんである二人には見えてる世界が自分とは違っているんだなと、そんな風に感じで楽しいと思えなくなってしまいました。実際に話すのは夫とばかりになっているのが現状です。

暇ができてもフラッと飲みに行く友人も自分にはいないのか、といった虚しさもあり、ついつい考えてしまいます。この寂しさはどうしていったらいいのでしょうか?

趣味はあり、もちろん一人でいる時間もそこまで苦痛ではないので、今のスタイルをつづけているのですが、やはり寂しい気持ちが抜けません。(相談者:年老いた猫 /女性、40代の夫婦二人暮らし、自宅でデザインの仕事をしています。 )

紫原明子さんの回答

年老いた猫さんこんにちは。
人と顔を合わせる機会が少ないんですね。私も自宅で作業するフリーランスなので、年老いた猫さんの状況、わかります。大人になると、なかなか新しい友達を作る機会に恵まれないものですよねえ。お友達とも、すこし距離ができてしまったんですね。

寂しさって、ほどよくある分には人生に退屈しないドラマを演出してくれる、いいスパイスになるけれど、一方でそれが常態化してしまうと、次第に自分の心や体を蝕んでいきます。なので、やはりここは寂しさを解消していく方法を検討してみたいと思います。

まず、こういうときに私が必ずお勧めしているのは、読書会に参加することです。読書会は数年前から密かにブームだそうで、実は全国各地、さまざまな形で開催されています。初めての人と話すときに「どこからきましたか」「趣味はなんですか」とかお見合いみたいなことを聞き合っても話はそう大して盛り上がらないけれど、読んだ本を題材に話をしてみると、案外楽しめたりするものです。もし、最初の1回がピンとこなくても、嫌でなければ2回、もしくは3回くらい続けて参加してみてください。そうすると、なんとなく顔なじみができたり、顔なじみから友達ができたりもするかもしれません。

会の性質にもよりますが、平日夜間や休日に、自分の趣味の集まりに気軽に参加できる人となると、自然と子育て中の人は少なくなります。ですので、年老いた猫さんと似たようなライフスタイルの人と知り合える可能性も、俄然高くなると思いますよ。

また会にある程度馴染んだら、運営のお手伝いをするというのも良いのではないでしょうか。もちろん、ただ一般参加者として参加しているときに比べれば多少は時間を多く取られ、面倒な作業を背負うことにはなるかもしれません。が、だからこそ、それを共にやり遂げた人たちの連帯意識、仲間意識って、何の責任も負わない参加者でいるときとは比にならないものがあるようです。
読書会でなくても、何かしら趣味の集まりに参加されるときにはこのように、いつかは運営側に回ってみるというのもぜひおすすめしたいです。

さらに、新しく友達を作ることとは別に、年老いた猫さんご自身が、何か新しいジャンルの勉強や新しい仕事など、全く未知の分野の新しいことを始められてみてはどうかと思います。……というのも、私が思うに、私達の寂しさには少なくとも2種類あると思うんです。具体的に言うと、ひとつは、本当に友達に恵まれていなくて、他人にしか埋められない孤独が埋められていない場合。そしてもうひとつは、他人との関係は実際には無関係で、自分自身の、退屈で刺激の足りない日常から目をそらしたいだけ、という場合です。後者は一見寂しさのように見えないけれど、巧妙に寂しさに擬態して私達に錯覚を起こさせるのです。

つかぬことを伺いますが、現在、お仕事はどんな調子ですか? 楽しいですか?
もし、年老いた猫さんが生活に困らない大富豪だったとしたら別ですが、そうでなければ恐らくこれから先、10年、20年、30年、40年……と、長くお仕事を続けていかれるのではないかと思います。どうでしょうか。飽きることなく、続けていけそうな感じでしょうか。

人生100年時代と言われる昨今、50歳が中間地点だと考えると、恐ろしいことに私達はまだ半分も生きていないんですよね。あらゆる情報がスマホから簡単に手に入り、日本の北から南まで、当たり前に日帰り移動できてしまう。いろんな欲望がスピーディに満たされる今の社会で、私達は果たして、一体どうすれば“もう飽きたわー”って言わずに、あと50年くらい過ごしていけるんでしょう。

……と、こういうことを考えてみると、自分の仕事や生活にある程度こなれてきたアラフォー、アラフィフ世代というのは、その慣れた状態がマイナスに働くようになった場合には、やっぱりそれまでの生活を、大なり小なり、何かしら変化させる、新しい要素を取り入れる必要があるのではないかと思います。仕事でも趣味でも。一から人に教わったり、学んだりして、今後末永く時間を潰せそうなこと、がむしゃらに、夢中になってやれたりすることと出会えれば、きっとその後しばらくは忙しくて寂しさなんて感じる暇ないだろうし、また同時に、新しい世界の人との出会いも得られるかもしれません。やる前はちょっとめんどくさいことのように思えるかもしれませんが、いざ始めてみると、案外楽しいはずです。もしよければ、目についたものからぜひミーハーに、いろいろと試してみてください。

最後に余談ですが、お名前の「年老いた猫」と聞いて私は真っ先に、ミュージカル「CATS」に登場するヨレヨレのおばあさん猫、グリザベラを想起しました。
物語の序盤、かつて人気娼婦だったグリザベラは今やすっかり落ちぶれて、力なく薄汚れたボロの毛皮をまとっています。他の猫達からもすっかり忌み嫌われ、なんとも可哀想な状態なのですが、物語の最後の最後には、仲間たちに再び認められ、おまけにみんなの中でただひとり、新しい世界で、新しい人生を生き直せる者に選ばれるんですよ。

年老いた猫さんがどうしてこのペンネームにされたのかわかりませんが、これから先の希望に満ちた未来が、なんだか目に浮かぶようです。

紫原明子さんへのお悩み相談はこちらから!

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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