赤瀬川さんのコラージュ作品を見に行ったら、画廊の主人から面白い話を聞いた。数年前、あの模型千円札を、某美術館が数百万円で購入したという。「つまり国家があれを芸術と認めたってことだよね。それなら有罪が確定した赤瀬川さんの裁判もやり直した方がいいよねぇ」。千円札を印刷して作品にしたことは芸術行為とは認められない、違法であるとの判決が下ったのは、今から50年以上前のこと。被告人となった赤瀬川原平さんもすでにあの世へ旅立った。今ごろ、あの世で「してやったり」とニヤニヤ笑っているかも。「ほーら、やっぱり芸術だもんね」と。
今回その千円札も展示されているが、メインはほぼ同時期に制作された未発表のコラージュ作品たち。美術史家の山下裕二さんの解説によれば、20代半ばの赤瀬川さんは、発表するあてもなくこれらの作品をシコシコと作り続けていたらしい。山下さんは赤瀬川青年の姿を思い浮かべて「孤独だったんだろうなあ……」と瞑目する。そういえば画廊の主人も「創作することは、自分を切り刻むことだからねぇ」と呟いていた。
当の赤瀬川さんはその時代を「破壊工作に燃えていた」と書き残している。「壊れたものを拾い上げて組み直すと、まったく別のものが出来上がる。(中略)有頂天になりながら破壊と工作に突進していた」。コラージュ作品たちは研ぎ澄まされていて軽やかだ。孤独に、そして有頂天に、作ったのかなぁ。あの世のご本人はきっと「さあて、ね」なんてニヤニヤと煙に巻くんだろう。