くらし

『本日の高座 演芸写真家が見つめる現在と未来』著者、橘 蓮二さんインタビュー。「この本を契機に高座に足を運んでほしい。」

たちばな・れんじ●1961年生まれ。’95年より演芸写真家として活動。『橘二写真集 噺家』(全5巻)、『この芸人に会いたい』『夢になるといけねぇ』など著書多数。また、2015年より落語会の演出・プロデュースも手掛ける。

撮影・中島慶子

演目を終えて深々とお辞儀をする柳家三三師匠、今にも汗が飛び散りそうな動きと鋭い眼光で観客を見つめる講談師・神田松之丞さん、あるいはプロジェクターを見つめ、真摯な表情で作品をのせる紙切りの林家正楽さん……本書は演芸写真家として数多くの落語家、浪曲師、漫才師などの芸人を撮影してきた橘蓮二さんの写真集だ。その数は140人以上。章ごとに添えられた文章には、長年演芸を見続けてきた人ならではの洞察力と熱い思いを感じる。

「写真家を辞めようと思っていた23年前、鈴本演芸場の席亭にお願いして楽屋で芸人さんの写真を撮らせていただくことができました。それ以来、演芸に救われたと思って、ぜひ観てほしい、聴いてほしい芸人さんを撮影しています」

主に舞台袖から撮影した橘さんの写真には、私たち観客がうかがえない芸人の意外な表情や姿が垣間見える。

「目の前に起こっている現象を表現するなら写真より映像のほうがわかりやすい。写真の場合は見えていないところで、どう想像させるかだと思っています。たとえば本人の顔が写っていなくても、脱ぎ捨ててある羽織や帯をほどく手元だけでも、その人を表現できることが大事ですね」

本書の最終章では、今後の演芸界を担う若手の写真を掲載している。橘さんは彼らの高座での表情とともに、以下のように記す。

――将来の大看板がこの本のなかにいると信じて、これからも芸人さんへの愛情と尊敬を込めて高座に向き合っていきたい――

「生意気なことを言うようですが、僕は生まれる前と死んだ後の噺家さんは撮影できない。たまたまこの時代に立ち会えただけですが、それでも(柳家)小三治師匠や亡くなられた(立川)談志師匠も撮影できた。夢をもって日々努力している若手芸人さんを紹介するのも僕の役割だと思っています」

今は空前の落語ブーム。定席と呼ばれる、毎日落語を楽しめる寄席以外にも、さまざまなホールで落語会が開催されている。

「僕が通い始めた頃と比べて、本当に多くのお客さんが観にきてくれています。ただ、まだ落語を知らない人も多い。僕の写真を見て、この人かっこいいなと思ったり、着物や所作がきれいだなと感じたことで、一度寄席などに足を運んでくれれば何よりです。今は大御所から若手までいい噺家さんがいっぱいいますので、きっとお気に入りの人が出てくるはずです。この本が演芸と出合うきっかけになってくれればうれしいですね」

講談社 1,600円

『クロワッサン』981号より

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